第61話 じゃないほう
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斬られて倒れたオークと場所を入れ替わるようにして、ぼくは前に出た。
とどめを刺そうと振り下ろしたアルティア兵の剣を、ぼくは自分の剣で受けとめた。
倒れたオークが立ち上がりざまに動きの止まったアルティア兵の足を剣で斬った。
ナイス。オークは頑丈だ。
踏ん張れなくなり、ぼくのほうに倒れ込んでくるアルティア兵の腹を、ぼくは思いきり蹴り飛ばした。
後ろに転がったアルティア兵は階段から飛び込んできたばかりの別のアルティア兵にぶつかった。
ぶつかられたアルティア兵はバランスを崩して崖から落ちた。
階段上に落ちれば良かったのに、生憎、横にずれたため急斜面だ。
悲鳴をあげて転がり落ちて行ったみたいだけれども、ぼくは崖下から矢で射られないように下がっているためアルティア兵がどこまで転がり落ちたのかまでは分からない。
崖下には一万人のアルティア兵がいるというけれども実際にぼくの目から見えている相手は階段の上のほうにいる人たちだけだ。
階段は、もちろん段になっているため前にいる人は全身が見えているけれども後ろにいる人ほど下半身が欠けていって、やがて頭だけになって、ついには見えなくなる。
ざっくり百人が見えていたとしても直接的に全身が見えていて対峙している気になる相手は、せいぜい二十人か。それより後ろは、ただの順番待ちの
一対二十だ。
いや、ぼくには相棒のオークジェネラルがいるから二対二十。
生き残っている他のオークたちもいるから、もう少し割は良いはずだった。
ましてや、実際に剣を合わせることになる相手は二十人のうちの数人ずつになる。
四方八方から一斉にぶすりとやられたらたまらないけれども正面だけにしか相手がいないのであれば、そう怖くはない。
ただし、いつもの
のんびりしていると次の相手が階段から崖上にやってきて敵がどんどん増えていってしまうので素早く対処する必要がある。
ぼくは、さっきの蹴り飛ばしたアルティア兵を追って、さらに前に出た。
仲間の邪魔をした上、地面に転がったままになっているアルティア兵の体を追い打ちするようにさらに蹴る。
アルティア兵は階段上に転がり落ちた。
ぼくは下から矢が飛んでくる前に素早く下がった。
怪我をした味方が自分の足元に転がって来たならば階段にいるアルティア兵だって
広い場所ならば避けて進めば良いだけだけれども狭い階段の上なのでそのまま転がして置くわけにはいかない。
対応案は三つ。
階段から崖に突き落とすか、崖の上に蹴り返すか、負傷兵として階段の下へ送るかだ。
人数的にアルティア兵は圧倒的に有利な立場にあるので味方を助ける選択肢を取る余裕があるはずだ。
アルティア兵は、ぼくたちが王国の
順当ならば負傷兵は階段を使って崖の下送りにするだろう。
もし負傷兵が自分の足では歩けなければ誰かが連れて降りるしかない。
それかバケツリレー方式だ。
いずれにしても階段上で上る人間と下る人間が交錯するようになれば少なくとも今までどおりの速度ではアルティア兵は駆けあがっては来られなくなる。
ぼくの狙いはそれだ。
ぼくは続いて崖上に上がって来たアルティア兵と切り結ぶと相手の足をざくりと斬った。
地面に転がったアルティア兵を階段に向けて蹴り飛ばす。
階段にいたアルティア兵は仲間の体を掴まえて階段に引き戻した。
代わりに次のアルティア兵が崖上にあがってくるけれども、その後ろにいるアルティア兵たちは引き戻した負傷兵の止血をして階下に送り返そうという動きを行っていた。
これで一対複数の戦闘ではなく一対一の勝ち抜き方式に持ち込めた。
問題は相手の数にきりがないこと。
崖上に上がってくる速度こそ落せたが、まだ一万人残っている状況には違いがなかった。
ぼくの体力もオークの体力も無限ではない。
矢にも魔法にも限りがある。
幸いなことに、ぼくの相棒のオークジェネラルにも、ぼくの行動の意図は通じたらしい。
ぼくだけではなくジェネラルも倒した相手を階段に吹き飛ばすような動きを取ってくれた。
もっともジェネラルに吹き飛ばされる相手は、ほぼ即死か物凄い重症なのだけれども。
とはいえ仮に死んでいたとしても仲間の遺体を邪魔だからと崖下に落とすわけにはいかないのでオークジェネラルに吹き飛ばされたアルティア兵は階段を下へ運ばれていく。
お陰で階段は大渋滞だ。
それでも次から次へと上がってくるアルティア兵たちを、ぼくとオークたちで倒し続けた。
ジョシカに感謝だ。
ジョシカが、ぼくにくれた剣のおかげで、ここまでぼくは持ちこたえられている。
あとは王国の斥候二人の準備がいつ整うか。
ぼくは斬ったアルティア兵を階段の方向へ蹴飛ばした。
階段上のアルティア兵により、ぼくに蹴られたアルティア兵の体が引き戻される。
次のアルティア兵が階段から崖へ出る。
というのが一連のリズムになっていたけれども次のアルティア兵は階段からこちらへ来なかった。なぜか階段上に留まっている。
「ん?」
留まっているアルティア兵の顔を、ぼくは見た。
ぼくと相手の目があった。
「貴様は、『
そのアルティア兵は怒りのこもった口調で、ぼくの肩書と名前を口にした。
オーク集落殲滅の完了確認を一緒に行った副隊長じゃないほうのアルティア兵だった。
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