第51話 雑談
52
ぼくは駐屯地の入口で歩哨の一人から歩哨詰め所内に保管されていた自分の剣を返してもらった。
その場で抜いて刃を日に当てて確認する。
当たり前だが破損は無かった。
ぼくに剣を手渡した歩哨が、むっとした顔と口調で言った。
「預かったままだから問題ないはずだ」
「あ、すいません。気を悪くされたらごめんなさい」
ぼくは剣を鞘に納めた。
ぼくの前には剣を返してくれた歩哨の他に副団長と一緒に話を聞いてくれた若い兵隊がいた。副団長は、さすがに忙しい身なので本来の職務に戻っている。
近くに自分の持ち場に就いているもう一人の歩哨とバリケード台車係の兵隊もいるのは言うまでもない。
「自分の命を託す剣を確認するのは当然だ。良い心がけだな。その剣とは長い付き合いなのか?」
若い兵隊が歩哨をじろりと睨んでから、ぼくに言った。
年齢は歩哨のほうが上のようだが、軍での階級は若い兵隊のほうが上なのだろう。兵士ではなく士官? 軍人の階級は探索者とは違うので、よくわからない。
「それが
ぼくは先ほどの歩哨に頭を下げた。
「こちらこそ失礼しました」
恐縮した口調で歩哨が言って自分の持ち場に戻って行った。
「せっかくなので見せてもらっても?」
「どうぞ」
ぼくは士官に、まだ腰に
士官は剣を抜くと、ぼくと同じように刃を日に当てて裏表をじっくりと観察した。
鞘や柄の造りも、じっくりと観察している。
やっぱり高い剣だったのだろうか?
「
士官は、ぼくに剣を返した。
「今度は大事にしないとな」
「そのつもりです」
ぼくは剣を腰に佩いた。
その時、馬に乗った二人の兵隊がやって来た。
近くまで来ると二人とも馬を降りた。
ぼくと一緒に、『
何日か泊りがけでの任務となるため必要な荷物を準備して馬に積んできたのだ。
ぼくの立場は軍の仕事に協力する一般人という扱いだから一応、お客さんだ。ぼく個人ではなく軍で、ぼくの分まで何もかも手配してくれた。
ぼくは一人では馬に乗れないから、どちらかの馬に相乗りとなるのだろう。ここまで何日もかけて辿り着いたが馬がいるなら今度は一泊か二泊で済むだろう。
「探索者とはいえ案内人は民間人だ。無理はさせるな。危険を感じたら、すぐ引き返せ」
士官が斥候の二人に注意を促す。
「ハ!」と二人。
ぼくたちは士官と歩哨たちに見送られて、ぼくがさっき来たばかりの道を逆に辿って再びオーク集落へ足を向けた。
53
同じ日の夕刻。
「先日情報共有をいただいたオークジェネラルの動向について、その後の情報の擦り合わせを行いたく伺いました」
近傍いくつかの探索者ギルドを取りまとめる中核的ギルドマスターであるライネットは突然、軍関係者の訪問を受けた。
相手は普段、事務連絡のやりとりをしている事務方の人間ではなく若い士官だった。
ライネットがオークジェネラルらしきオークの遺体の鑑定を依頼され、実際に現地確認を行った日から、すでに半月近くが経過している。
現地確認後、ライネットは直ちに関係する探索者ギルドと軍に対してオークジェネラルの不穏な動向について注意を喚起するようにとの連絡を行った。
もちろん、ギルドに所属する探索者に対しても同様の注意喚起をしていた。
オークジェネラルの討伐適正探索者パーティーランクはCランク。
Cランク以上のパーティーであれば討伐可能な相手ではあったがジェネラルが単独で行動をしている事例は、そう多くない。実質的な危険度は、もっと上だ。
その他のオークが一緒に行動している可能性を考えると探索者ギルドとしては、あまり探索者に遭遇してほしくない相手だった。できれば軍に山狩りなどの抜本的な対策をとってほしい。
突然であったとはいえ、そういった意味では軍関係者の訪問は、むしろ歓迎したいところだ。
実際にライネットが管轄する探索者ギルドにおいても注意喚起以降、何人ものオークジェネラルが討伐されていた。
メイジやアーチャーなど他の中堅的なオークの活動も活発だ。雑魚オークは、なおさら。
ライネットは、そういったオークの活動が活発化している現状について相手に伝えた。
その上で軍によるオーク狩りの実施を要請した。
「軍でも前向きに検討をしているところです。近日中にはと考えています」
ライネットは相手から好意的な回答を得て満足した。
概ねの擦り合わせが終わる。
最後に士官は、あまり探索者業界に詳しくないので一般論としてお聞きしたいのですが、と前置きをしながら雑談として話題を振った。
「探索者が所持している自分の探索者カードのランクの記載と探索者本人の実際の実力が違うということはないのですか?」
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