第48話 挨拶
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探索者ギルドには王国の兵士から緊急の協力依頼が入る場合がある。
一般的に兵士は対人戦に適していて探索者は対魔物戦に適している。
何か魔物がらみの軍で対処しなければいけない特殊な事案があった場合に探索者ギルドに所属する探索者に協力依頼として援助要請が行われる場合があるのだ。
もう三年も探索者をやっているから、そのような軍関連のちょっとした依頼を、ぼくたちのパーティーは何度か受けた経験があった。
本来であれば、もっとベテランの探索者が対応するべき案件ではないかと思うが守秘義務がどうのと面倒臭いことを言う割に依頼料が安いため、ベテラン探索者は、こぞって逃げてしまう。
かといって、
そのため、ぼくは王国兵士の駐屯地に何度か足を運んだ経験があった。
王国内の各町や村にはそれぞれ何人かずつ、場合によっては何十人かずつの兵士が派遣されていて、それぞれ治安維持のための活動をしていたけれども百人単位、千人単位、万人単位という本格的な軍事活動に備える兵士たちは王国内にいくつか整備されている基地や駐屯地を拠点として日夜訓練をしていた。
もちろん、王都には王都守備隊がいるけれども、それは別枠だ。
王都や他の常設の基地を除き、国内各地の兵士駐屯地は施設の設営訓練と軍事情報の秘密保持を目的として時々解体しては別の場所に再設営する仕組みがとられていた。
崖の上でアルティア兵から一瞬見せられた地図には、ここから最近辺にある駐屯地の場所が、ぼくが知っているとおりの場所に的確にマーキングされていた。
戦争になる、ならないは別にしても軍関係の施設であるのだから隣国兵士にとって最重要チェックポイントであるのは当たり前だ。場所ぐらい調べているだろう。
だけれども、それだけではない以上の深い意味を、ぼくはそのマーキングから感じていた。アルティア神聖国の侵略意思だ。
山中を何日かかけて移動し平原に出、ぼくは、ぼくが知る駐屯地に辿り着いた。
幸い、途中でオークには出会わなかった。
駐屯地は、ぼくが住む町よりは国境に近い位置にあるけれども町へ帰る通り道上では、まったくない。
『
以前に訪れたのと同じ場所に、ぼくが知っている駐屯地は、まだあった。
平原の中に塹壕が掘られて連結した逆茂木によって広大な敷地が囲まれている。
逆茂木内には組み立て式の仮設建物が幾つも建てられて駐屯地となっていた。
ぼくは逆茂木の一角が切れて入口となっている場所に向かった。
歩哨の兵士が入口の左右に立っている。
オーク集落の隙間通路を塞いでいたのと同じようなバリケード台車で入口は内側から外に向かって塞がれていた。
歩哨が立っている場所はバリケード台車の外側だ。
台車の近くには台車を動かすための兵隊たちが何人か立っていた。
歩哨の居場所は何かあった場合に彼らに内側からバリケード台車を開けてもらえないと見殺しにされてしまう位置である。さすがは本職の兵隊だ。肝が据わっている。
そう思いながら、ぼくが近づいていくと、歩哨はあからさまに警戒した態度で、ぼくに槍の穂先を向けた。
「近づくな。何者だ!」
あれ?
そういえばそうだった。ぼくはオークジェネラルの装備のままだ。
ぼくは両手を上げて万歳をしながら慌てて言った。
「探索者パーティー『同期集団』のバッシュです。副団長さんに会いにきました」
以前の依頼で訪れた際に挨拶をした副団長に会いたいという話をした。
副団長と、ぼくたちは当時直接に何かやりとりをしたわけではない。
作戦前の打ち合わせの際に副団長が挨拶のために顔を出したのだ。
協力を感謝する、とか、そんな話を一言二言しただけで、すぐ去ってしまった。
兵団の幹部という立場上、ギルドとの関係もあり顔を出す必要があったのだろう。
でも、ぼくはそんな副団長の名前を憶えていた。
「ハーマイン副団長をお願いします。探索者パーティー『同期集団』です」
堂々と胸を張って、ぼくはもう一度会いたい人物の名前を口にした。
副団長が、ぼく個人を覚えているとは思えないが『同期集団』の名前ならば憶えているだろう。
『同期集団』のノルマルと言えば、もしかしたら個人名として覚えてもらっているかも知れない。さすがリーダー。でも、ぼくは覚えられていないだろう。
ぼくは探索者カードを兵士に見せた。
カードには、もちろん『バッシュ。Fランク探索者』とある。
ぼくは、もう『同期集団』を抜けているので厳密には騙りになってしまうが緊急事態のため、そこは見逃してほしい。
元『同期集団』のバッシュ、と言っても、何だかなあ、だ。
「Fランク?」
怪訝な表情で、ぼくからカードを提示された歩哨は疑問の声を上げた。
普通は兵団の副団長クラスに面会を申し込む探索者といえばギルドマスターかサブギルドマスターだ。
「はい」
ぼくは、またまた堂々と受け答えた。
やましいことは何もないが前回訪れた時は歩哨とのやりとりはノルマルが行った。
当時ノルマルはDランク探索者だ。今はC。
いずれにしても新進気鋭と呼ばれるパーティーのリーダーとして不足はないランクだ。
ぼくはF。
新進気鋭どころか、あらゆる探索者の最底辺だ。
それでも歩哨に対して毅然とした態度は崩さない。
こちとら千人のオークの群れに一人で囲まれたし泣く子も黙る『
「ハーマイン副団長をお願いします」
もう一度、ぼくは言った。
「どのような要件だ?」
ぼくは、ちらりと意味深に逆茂木の内側に立つバリケード台車近くの兵隊たちに目をやると彼らには聞こえぬ程度の小さな声で「副団長に内密にお伝えいただきたいのですが」と二人の歩哨にだけ聞こえるように口に出した。
「『
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