第二章 初陣
第16話 約束
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二年位前まで、ぼくのランクが上がるかどうか、ぼくが探索からギルドに帰ってくると探索者たちの間では賭けが行われていた。
その頃、ニャイは、ぼくたち『同期集団』の担当になったばかりだったからお付き合いで毎回ぼくのランクが上がる方に賭けてくれたんだ。
結果は言うまでもない。
「大体なんで『同期集団』の仲間すらバッシュさんのランクが上がるに賭けないんですか!」
ニャイはノルマルにくってかかった。
「バッシュの良さはランクなんかじゃないんだよ。俺たちは、みんなわかってる」
しかつめらしく、うんうんと頷き合う『同期集団』のみんなにニャイは本気で怒っていた。
「そういう話じゃあないんですよ」
だから、いつだってニャイが一人負け。
ぼくは毎回いたたまれなくなるというルーチンだった。
そのうち賭けが成立しなくなってきたから賭けそのものがなくなった。
いや、正確には賭けは成立するにはするんだ。
ニャイが意地になって、ぼくのランクが上がるほうに賭け続けるもんだから。
だからといって、結果がわかり切っている賭けで毎回ニャイから巻き上げる形になるのは賭けに参加している探索者もギルド職員もしのびない。
もちろん、ぼくもだ。
いつか、ぼくのランクが上がる日が来れば逆にニャイが一人勝ちできたはずなのだけれど、そんな日はとうとうこなかった。
そんなわけで、ぼくのランクアップの賭けはなくなった。
今までバッシュに賭けた金があったらすげえいいもん食えてたな、と誰かが言い出し、ニャイは泣きそうになっていた。
「じゃあ今度からバッシュさんのランクが上がらなかった日は賭け金の代わりに貯金をします」
ニャイは、その場にいた全員に向かって宣言した。
「バッシュさん。貯めたお金でバッシュさんのランクが上がったら二人でお祝いに御馳走を食べに行きましょう」
ニャイはみんなにイーっとした。
「いいですね? わたしたち二人だけで御馳走ですよ」
「うん。わかった」
ニャイが、あんまり
その日から探索者ギルドのカウンターにはニャイの貯金箱が置かれている。
今度こそ絶対上がってるはずですよって、ぼくが探索から帰ってくるたびにニャイは言ってくれるんだけれど、毎回、貯金させちゃってごめんなさい。
もう二年近くたつけど、あれ今いくらになってるんだろう?
小銭ができるとふざけて入れている人たちもいたから結構貯まってるんじゃないだろうか?
御馳走じゃなくてもいいからニャイと食事ぐらい行きたかったな。
そんな変な約束をしちゃったものだから、ぼくにはニャイを普通に食事に誘うこともお茶に誘うことも何もできなくなってしまった。
ニャイとの何かは、ぼくのランクが上がった時のご褒美みたいな扱いになってしまったのだ。
探索者とギルド職員が総出で見張ってくれちゃっていた。
まったく、もう。
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