第15話 呪い
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「あいつ、寝る時も風呂に入る時も絶対に体から剣を離さなかった」
ノルマルが言い切った。
「あからさまに奇行じゃないか。おかしく思わなかったのか?」
ライネットが驚嘆した。
「いや。実家に飾られていた家宝だって言ってたから大事にしてるんだなって」
「なるほど。既におまえたちも異常を異常と感じぬ程度には呪剣に魅了されていたのだ。こんな剣を使っていては本来の実力など出しようもなかっただろう。そのバッシュくん、よく生きていたものだ。いや、お前らも」
ライネットは地面の錆びた剣を、しみじみと見つめた。
「先ほどの泡の様子だと最低でも『-3』級の呪いだ。斬れないし重いし、すぐ疲れる。よく相手の攻撃を躱すような真似ができていたものだ。おまけに魔物を呼び寄せる。『-1』につき二割増しだとして『-3』だと六、七割増しくらい魔物が出たはずだぞ」
「今日同行した俺たちの体感もそれくらいだ。普段より明らかに多くの魔物と遭遇した。『同期集団』が早くランクを上げられた理由は多分それだな。いいのか悪いのかは何とも言えないが」
ここまで案内をしてきたスレイス隊の魔法職が言った。
「普通は死ぬな。消耗した時に次の魔物を呼ばれたら絶望的だ」
「もしかしてバッシュのランクが上がらなかったのも、この剣のせいか?」
ノルマルがライネットに疑問をぶつけた。
「そりゃランクだって上がらないだろう。『-1』につきランク換算値で十点ぐらいは下がるはずだ。『-3』ならば三十点。ほぼAランク相当の逆境だ。上がりようがない。おまえらランクが上がらないのは呪いのせいだとは考えなかったのか?」
「冗談ではそういう話もしたが本気ではしなかった。ギルドにも相談したがそんな話は出なかったしな」
ノルマルは自分のギルドのギルドマスターを睨みつけた。
「呪いはわたしの専門ではないんだ。本部に探索者カードの問い合わせも行っている」
ギルドマスターは言い訳をした。
「ギルドには探索者のためにもう少し親身になることを望みたいね」
ノルマルは皮肉を言った。
再びライネットに相手を戻す。
「バッシュは生きていると考えていいんだな?」
「おそらく。ナイフを使ったのがバッシュくんだとしたならばだが」
「よし!」
ノルマルはミトンとジェイジェイと顔を見合わせた。
「ニャイに吉報だ。呪いが解けたならランクも上がるぞ。だろ?」
「おそらくは」とライネット。
ノルマルは苦々しい顔で地面に落ちている錆びた剣を睨みつけた。
「こいつのせいでバッシュは余計な苦労を」
ノルマルは、その場にしゃがみこんだ。
「もう触っても?」
「大丈夫だ」
ノルマルはリュックサックから布を取り出すと錆びた刃と柄を布でくるんで、リュックサックにしまった。
リュックサックの上から布の頭が突き出している。
「そんなものどうするんだ?」
「バッシュは家宝を勝手に持ってきたと言っていたからな。回収ぐらいしてやろうかと。どうするのかはバッシュ次第だ」
「無事ならばギルドに戻るはずだ。ギルドでの合流を約束した」
スレイス隊の魔法職がバッシュとの最後の会話を思い出して言った。
「よし!」
捜索隊は、その後もしばらく付近の捜索を続けたがバッシュは見つからなかった。
やはり探索者ギルドに戻ったのだろうと判断して捜索を終了する。
捜索隊がギルドに着いてもバッシュは戻っていなかった。
ニャイが幾日も幾日も待ってもバッシュは戻ってはこなかった。
◆◆◆お礼・お願い◆◆◆
『クビになった万年Fランク探索者。愛剣が『-3』呪剣でした。折れた途端無双です。』を、ここまで読んでいただきありがとうございました。
ここまでで、第一章です。
このような小説が好きだ。
バッシュ、頑張れ。
ニャイ、頑張れ。
続きを、早く書け。
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仁渓拝
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