第12話 カルノと対峙

ジルズ大臣の一人娘、カルノはクラウよりも二つ年上だった。

ツンとした顔立ちの美人である。

小さい頃からいつか王子であるクラウと結婚するのはお前だと周囲にも言われていたので、自分でも王子妃になるのだと信じていた。

婚約の話が出た時も、当然だと思っていたのだ。

クラウに釣り合うのは美しい自分だと。

だから、王子が他に結婚したい人を連れてくるなんて思いもしなかった。


「ミア様ですよね? 良かったら少しお話しませんか?」


カルノにそう声をかけられたのは、迎賓の館の庭にいた時のことだった。


「カルノ様!? どうしてこちらに!?」


ハザンがサッとミアの前に立つ。

警戒しているのがその背中から伝わった。

カルノは赤いドレスを身にまとい、黒髪を綺麗に結い上げていた。

赤い口紅がドレスに合っていて、綺麗な顔立ちがさらに映える。


「あら、ハザン殿。お久しぶりですね。今日はお妃様主催のガーデンパーティーに呼ばれたのですよ? ミア様がいらっしゃらないのでこちらまで足を運んでしまいましたわ」

「カルノ様、場内を好き勝手歩かれるのは感心致しませんね。もうご婚約者様ではないのですから」


ハザンの言葉にカルノの眉がピクッと動く。

しかし笑みは浮かべたままだ。


「それは失礼いたしました。クラウ様とは幼馴染であり、婚約していたので城内の出入りは自由でしたの。この迎賓の館も何度も来たことがあったものですから」


カルノはハザンの後ろにいるミアに笑いかける。


「もしかしてミア様は今日のパーティー誘われていなかったのかしら?」

「ミア様は今回出席を見送られたのです」

「まぁ! お妃様主催のパーティーを見送るだなんて、さすがはクラウ様のご婚約者様ですこと」


大げさに驚くと、オホホと上品に笑った。


「本当は誘われていないんじゃないの?」


ニヤニヤしながら言うカルノにハザンも厳しい顔をしている。

ミアはハザンの腕にそっと触れて、軽く微笑んだ。

そしてカルノに向き合う。


「カルノ様。お初にお目にかかります、ミアと申します。本日はお妃様のパーティーにお声がけいただいていたのですが、朝から少し熱っぽく……。ご迷惑をおかけしてはいけないと、お妃様と相談して出席を見送らせていただきました」


ミアは「お妃様と」と少しだけ強調するとカルノは面白くなさそうにムッとした表情を見せた。

カルノの敵意は感じていた。

嫌味たらしい言葉の数々に、少しだけ反論してみたのだ。


(なんだかお姉様を見ているようだわ。でも嫌味も言いたくなるわよね。だってかつてはカルノ様がクラウ様の婚約者だったんだもの。それを渡しに奪われたようなものだから面白くないのでしょうけれど……)


ミアは内心ため息をついた。

するとカルノは引きつった笑みを浮かべる。


「そうですか。ご体調が……。ご無理なさらないでくださいね。では失礼」


フンッとでも言うように勢いよく踵を返すと、そのまま庭から去って行った。

カルノの姿が見えなくなると、ハザンが振り返る。


「ミア様、大丈夫ですか? カルノ様は少々きつい所がおありで……」


気遣うハザンに笑顔を返す。


「大丈夫です。あのくらいは慣れているから……。でもよほど私が気に入らないようでしたね。当然のことでしょうけど……」

「カルノ様はクラウ様のご婚約者として鼻高々でしたから、悔しいのだと思います。幼馴染として婚約者として、王宮に何度か出入りもしていましたし、隙を見てまたこうしてこちらまで来るかもしれません。何があるかもわからないので、ミア様もお気を付けください」

「そうですね……」


クラウもハザンもミアを心配していた。


そんな時、クラウが数日王宮を離れて郊外へ視察に行くことになった。


「俺がいない間、十分に気をつけろよ」

「大丈夫です。警備も手厚くなったと聞きますし……」


カルノが迎賓の館まで来たことをハザンが早速クラウに報告していた。

クラウは警備の手薄さや気の緩みを問題視して、警備は手厚く、しっかりとしたものにされていた。


「数日もお顔が見られないのですね……」

「ミア……」


寂しい気持ちがつい言葉にして出てしまった。


「あ、すみません。クラウ様はお仕事で行かれるというのに……。どうかお気をつけて行ってらっしゃいませ」

「あぁ、ミア。すぐに帰ってくるから……」


クラウはミアの唇に指でそっと触れ、顔を近づけた。

距離の近さにドキドキする。


「お、怒られませんか?」

「キスくらいはいいのでは? 数日離れるんだ、これくらいは許されるだろう?」


色気たっぷりに微笑まれ、ミアは赤面した。

クラウの甘さにとろけてしまいそうだ。

二人きりの部屋。

初めてそっと唇を合わせた。


「甘い……。もう少しだけ……」


クラウは囁くと、再びミアに口付けをする。

さっきよりも濃厚に……。


「んっ……あ……」


キスの合間に自然と声が漏れる。

自分の甘い声にミアはさらにクラクラとした。


「これ以上は止まらなくなるな……」


切なそうなクラウにきつく抱きしめられる。

ミアもその体に腕を回して体をくっつけた。

クラウの心臓がドキドキしているのが分かる。

このまま体がくっついて溶け合ってしまえばいいのにと思った。





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