第10話 初めての隣国
ミアは少ない自分の荷物を持って、クラウの馬車に乗った。
クラウが現れたことで気が付かなかったが、クラウの周りは護衛に囲まれていた。
物々しい状態だったことに、後で気が付いたのだ。
「お前をカラスタンドへ連れていく。いいか?」
「はい。私はこの国にもう思い残すものはありません」
そう言うと、クラウは微笑んでミアの手を握った。
大きくて温かくてホッとする手。
本当は夢なのではないかと思うほどだった。
(クラウ様が私を迎えに来るなんて……。しかも隣国の第一王子。そんな凄い方だったなんて思いもしなかったわ)
ミアはまだ少し混乱していた。
国境を越えて、半日馬車で移動するとカラスタンドの首都、アルゼンが見えてきた。
大きく賑やかで活気がある。
「凄い……!」
自分の国も王都は大きいと思っていたが、その倍以上だ。
街中も発展しており、豊でその差を見せつけられた気がした。
「ここがカラスタンド王国……」
「ここから少し山の上に上がると、王宮が見えてくる。このアルゼンからも見えるぞ。ほら」
指をさされた方を見ると、奥の方に大きな城がそびえ立つのが見えた。
(大きいわ……! この距離であの大きさだから近くで見るともっと凄いのでしょうね)
ミアは言葉をなくした。
立派な城は国の権力を示しているようだ。
この大きな国と、数十年前までよくも戦争をしていたものだなと驚きでしかない。
今では勝ち目すらないだろう。
そんなことを思っていると、馬車はいくつもの城門を通り抜け、道を進んで城内へと入って行った。
いくつも門があり警備が手厚い。
そう簡単に城へは行けないようになっている。
「着いたぞ」
馬車を降りて、城の奥へと誘導される。
広い城内を奥へ奥へと進むと部屋へ案内された。
開けると中は明るく、ベッドや机など必要な物が揃っていた。
「ここがミアの部屋だ。一晩ゆっくりと休むがいい。明日は国王に挨拶をしないといけないからな」
「わかりました。あの……、クラウ様はどちらに……?」
ミアが尋ねるとクラウはニッと口角を上げた。
「俺の部屋はまた別のところにある。俺も一緒の部屋がいいと言ったんだが、正式に結婚するまではだめだと言われてしまったから」
「あっ……」
ミアは顔が赤くなった。
そんなミアの様子にクラウは嬉しそうだ。
「ミア、可愛いな……」
「クラウ様ったら……」
甘い雰囲気が流れた瞬間。
「コホン!」
フェルズが軽い咳払いをした。
チラッとフェルズを見て、クラウは少し不満そう。
「少しくらいいいだろう? フェルズは厳しいな」
「せっかく承認を得たばかりなんですよ。ちゃんとしてくださいね」
「承認?」
フェルズの言葉にミアは首をかしげた。
「ミア様は他国のお方ですから。その方を妃として迎え入れるために、クラウ様は国王陛下や大臣、神官、議員など関係各所を説得して承認を得たのです」
ミアは目を丸くした。
(そうか……。私はよその国の人間だもの。そんな人間が王子に嫁ぐなんてそう簡単なことではないわ)
クラウはソファーに座って思い出すように天を仰いだ。
「留学が終わってからすぐに説得して回って……、半年かかった。大変だったけど、でもこうしてミアを連れてこられてよかったと思っている」
「留学から帰ってきたクラウ様の第一声は、ミアのことを調べてくれ! 結婚の承認を得る! でしたからね」
フェルズは苦笑した。
クラウはどこか恥ずかしそうだ。
「ミアの身辺は調べさせてもらったよ。そうしないと説得できなかったからね」
「それは構いません。やましいことなど何一つありませんもの」
「君は苦労してきた。だからこそ、俺が君を幸せにしたいんだ」
クラウのストレートな言葉にミアは頬を染める。
恥ずかしかったけれど、とても嬉しかった。
「君の卒業までに説得は間に合ったけど、今度はミアが行方知れず……。フェルズや他の従者達に探しに行ってもらっていたんだ」
「そうだったんですか。ではフェルズさんと初めて会った時も私を探していたのですね」
「はい、お名前と髪色、瞳の色を聞いていたのでまさかと思いましたが、お店の方が名前を呼んでいたのでわかりました」
フェルズは胸を撫でおろす仕草をする。
そしてフェルズはポンと手を叩いた。
「お茶をお出ししていませんでしたね。失礼いたしました。すぐにお持ちいたしますから、ゆっくりお話ししていてください」
にこっと微笑んで部屋を出て行った。
(気を遣ってくれたのかしら……)
二人きりになると急に緊張してくる。
クラウの顔が見れなくなっていた。
「ミア? どうした?」
「いえ……」
「ミア? こっち向いて」
クラウはミアの頬に触れ、自分の方に向かせた。
顔が赤くなったミアを見て、ニッコリと微笑む。
「ミア、可愛い」
「は、恥ずかしいです。クラウ様……」
クラウはミアを自分の胸に引き寄せた。
ドキドキしすぎてどうにかなりそうだったが、クラウの腕の中は落ち着く。
「ミア……、湖で初めて会った時、俺は一目で君を気に入った。話していると君の賢さや聡明さ、明るさ、笑顔……すべてに惹かれていった。初めてずっと一緒に居たいと思ったんだ」
優しい声で話すクラウに、ミアは涙を浮かべて聞いていた。
「ミア、愛している。俺と結婚してほしい」
「はい……! クラウ様、私も湖で会った時からクラウ様をお慕いしておりました」
「ミア……!」
クラウの手が頬を包み、そっと顔が近づいてくる。
ミアもゆっくりと目を閉じた。
その時。
コンコンと扉が叩かれて、フェルズが入ってきた。
「続きは結婚後でお願いします」
「フェルズ……!」
クラウは悔しそうにうな垂れて、フェルズを睨むがフェルズはどこ吹く風だ。
「仕方ないな。お茶でもしよう」
ため息をつきながら、クラウは残念そうに微笑んだ。
(あぁぁ、今フェルズさんが来なかったら……、私たちキスをするところだったわよね)
赤くなった顔が収まらない。
ミアは外の庭を眺めるふりをして顔を隠した。
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