第2話 生垣から現れたのは……

ミアは昼休みになると、必ず行くところがある。


「うーん、今日もいい天気」


ミアは大きく伸びをした。

学校の校舎から少し離れたところに、大きな湖がある。

乗馬の授業で来ることがある場所だが、ミアはいつも歩いてここに来ていた。

昼休みに行き来して昼食のパンを食べる。

それがちょうどよい時間だったのだ。


「湖がキラキラしていて綺麗だわ」


芝生の上に座って、持ってきたサンドイッチを頬張る。

ミアはこうして一人で過ごす時間が大好きだった。


すると、近くの茂みがガサガサと鳴った。


「何かしら……」


ここにはリスやウサギなど、小さな小動物がよくいた。

もしかしたら先日懐いたリスだろうか。

ミアは頬を緩ませ、食べていたパンをあげようかと考えていた。

しかし――……。


「痛たた……」


そう呟きながら茂みから現れたのは若い男性だった。


「え……」


目を丸くするミアと男性は目が合った。

ここは令嬢が通う学院だ。

男性は教師くらいしかいない。

目の前の男性は、ミアと同じくらい年齢に見えた。


(不審者だわ……!!)


「きゃぁ……」

「シッ! 大声出さないで!」


叫びそうになったミアに鋭く制止する。

驚いて叫び声が止まった。


(この人、誰……?)


男性は立ち上がると体に着いた葉や土汚れを軽く払う。

背が高く、スラッとしていてスタイルがいい。

焦げ茶色の髪がサラッと揺れる。

グレーの瞳でジッとミアを見つめてきた。

とても綺麗な顔立ちの男性で、ミアは戸惑いと見つめられたことによる恥ずかしさで顔をそむけた。


「君は……、ここの生徒?」


優しい声で聞かれる。


「えぇ……。あ、あなたは何者ですか? 不審者なら今すぐに通報いたしますよ」


ミアは警戒して後ずさりし、男性と距離を取った。


「それは困るな。俺はザーランド学院の生徒だ。探検していたらここに出てしまった」


ハハハと可笑しそうに笑う男性にミアはポカンとした。

両校は生垣で区切ってあるが、そこから行き来する人など今までいなかった。

ある意味、良い所のお嬢様とお坊ちゃまばかりなので、汚れたり叱られるたりするようなことまでして隣に行きたいとは思わないのだ。

そんなことしなくても社交界で出会えるのだし。

だから目の前の男性が言うことが怪しく思えた。


「探検って……。普通はそんなことしませんわ……。あなた本当にザーランドの学生なのですか?」


ザーランド生を語った悪人かもしれないと思った。

ミアが不審がると、男性は笑った。


「まぁ、俺は興味のある事には何でも挑戦してしまうからな……。俺はクラウ。出身は隣国のカラスタンド王国。ザーランド学院には留学中なんだ」

「カラスタンド王国……。留学生?」

「あぁ。あ、大丈夫。誓って君に危害は加えないから」


ミアは男性――、クラウが隣国の出身と聞いて驚いた。

30年前まで隣国とは敵対しており、冷戦状態だった。

平和条約を締結して戦争は終わり、隣国は急成長を遂げた。

今では我が国と戦争をしたら一瞬で負けてしまうだろうともいわれている。

そんな発展国が自分の国に留学するなんてと驚いたのだ。


「カラスタンド王国に比べたら何もない国で驚いたでしょう……」

「いいや。緑豊かでとても綺麗な国だ。それに、女性も美しい」


クスっと微笑まれ、ミアは頬が赤く熱くなった。

クラウのように美しい男性を見たことがない。


「名は何という?」

「……ミアと申します」


一瞬、偽名を名乗ろうか迷ったが本名を名乗ることにした。


「ミアはよくここに来るのか?」

「えぇ、お天気が良い日だけですが……」

「そうか。じゃぁまた会えるといいな。ではまた」


クラウはそういうと、再び茂みの中へと消えて行った。


ミアはその消えた場所を呆気に見ていた。


「クラウ……。驚いたけど、不思議な人……」


それがミアとクラウの出会いだった。



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