公爵家の赤髪の美姫は隣国王子に溺愛される

佐倉ミズキ

第1話 二人の令嬢姉妹

レスカルト公爵家には二人の美しい令嬢がいた。

姉のサラサ、妹のミア。

サラサは金色の髪に色白の肌。水色の瞳は湖のように澄んでいて綺麗だ。

ミアは赤毛の髪が輝いている。緑色の瞳は新緑のように鮮やかだ。

二人は髪色も瞳の色も全く違うが、異母兄弟なので一応血は繋がっていた。


「ミア、食事の席に遅れるなんてどういうこと?」


ミアが慌てて朝食の席に着くと、すでに着席していたサラサが厳しく指摘した。


「お姉様、申し訳ありません」


ミアが謝ると、サラサはため息をつく。


「はぁ、お父様もどうしてあなたを引き取ったのかしら。レスカルト家はお兄様が継ぐのだし、私は王族に嫁ぐのだからあなたは必要ないのにね」


ねぇ? と美しい顔でサラはミアに微笑んだ。

でも顔は笑っているのに瞳は笑っていない。

ミアは頭を下げた。


「母が亡くなった後、お父様が引き取ってくださったことには感謝しています」

「そうね。あなたも早く嫁ぎ先が見つかるといいわね。さっさとこの家を出なければね。でも愛人の子のあなたにそれが出来るのかしら」


サラはクスクスと笑った。

ミアは父の愛人のもとに生まれた。

育ててくれた母が亡くなった後は、父がミアを引き取って公爵家へ招き入れた。それが二年前のことである。

サラサの母親はミアのことが見えていないかのようにふるまっていた。

要は、ミアはこの家に歓迎されていなかったのだ。


姉のサラサは先日、王位継承者第7位のマハーテッド公爵家へ来年嫁ぐことが決まった。

王族の親族へ嫁ぐということで、レスカルト家は大騒ぎ。

特に家の中ではサラサの天下のようになっていた。

サラサは現在、花嫁修業と称して母と観劇に行ったり買い物をしたりと悠々自適に過ごしている。

一つ下のミアは現在学校へ通っているが、半年後の卒業後の進路は決まっていない。

姉のように嫁ぎ先を見つけるか、どこか家事手伝いという名目で家にいるか……。


「行ってまいります」


家を出るとき、そう声をかけるが誰も返事はしてくれなかった。


ミアの通う学校はマリージュ学院。いわゆるお嬢様学校で、爵位のある令嬢が通っている。

その生垣を挟んだ隣には同じく爵位ある子息が通う、ザーランド学院の校舎が建っていた。


「ごきげんよう、ミアさん」

「ごきげんよう」


クラスメイトに声をかけられ、ミアは挨拶を返す。

父に引き取られるまでは郊外の町で普通に庶民として生活をしていたので、二年たっても令嬢としての振舞いは苦手だった。


「お姉様、マハーテッド家へ嫁ぐことが決まったそうね。おめでとう!」

「凄いわよね、マハーテッド家と言ったら王族のご親戚ですもの」

「しかもお相手のカズバン様は王位継承者第7位のお方ですものね」

「ミアさんが羨ましいわ。あんな素敵なお姉様がいらっしゃって」


クラスメイト達はキャァキャァとはしゃいでいる。

ミアはただ黙って笑顔を作ってやり過ごした。

ミアとしてはサラサにいつも嫌味を言われているから、早くサラサがいなくなればいいのにと思っていた。


(お姉様の話題で持ちきりね。お姉様が美しいのは表面だけだわ……。みんな騙されているのよ)


ミアはこっそりとため息をつく。

この二年、何度も嫌味や小言を言われ続けていた。

時にはミアの手柄もサラサのものにされた。

でもあの家も誰もかれも、みんなサラの表面的な部分に騙されてサラの味方ばかりだ。


(お姉様が家を出ないのなら、私が先に出たいくらいよ)


でもミアに行くところはなかった。

だからこそ、あと少しの辛抱だと自分に言い聞かせる。


(あと少ししたらお姉様は出ていくのだから……)


毎日そう思っていた。


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