第5話 人間チーム(仮)

「さーって、あんたらを信用することにしようかなぁ」


 ジミィはそう言った。階段をコツコツと降りて、ホームに立った。


「あんたらは二人仲良く初心者みたいやし? ……二人いっぺんに初心者ってのも、ちょっと変な気もするけど。まあてことは自動的に人間チームってわけや。嘘ついてるようにはまるで見えんし、ま、確定ってことで」

「は、はあ」

「とりあえず、武器をだしてみ? 戦おうって念じればでるから」


 コツコツと、ジミィは己の盾を叩いた。彼のその武器(?)もそのようにして出しているのだという意味だろう。

 戸惑いつつも、雛乃から離れて、念じてみた。

 ブワンっと、何かの起動音のような音がした。


「うわっ」


 そして、気づいたときには僕の手元に、二本の刀が握られていた。


「ほー。日本刀、しかも二刀流か。自分、顔に似合わずかっこええ武器やないの」


 ジミィが茶化すような声を上げる。続けて彼は雛乃に向けて顎をしゃくった。


「ほい、彼女もやってみー」

「は、はい」


 雛乃が一歩踏み出す。同じくブワンと音がして、彼女の手には巨大な西洋刀が握られていた。


「あー。こりゃまたけったいな武器やなぁー」


 ジミィはしげしげと、西洋刀を眺める。鋭い両刃の剣は、まるで勇者のもつ伝説の剣のようだ。ジミィの持つ盾と合わせると、なんだかしっくりくるような気がする。


「さて、武器もそろったし、行きますか」


 ジミィが言った。


「いったい、どこへですか?」

「決まってるやろ。残り一人を探すんや。あんたらは人間。そして俺も人間。そうなったら、あとは残りの一人が悪魔。三人で協力してソイツをぶち殺してやるんや」


 ぶち殺す。

 その何気なく吐かれた言葉に、僕はかすかに身震いを覚えた。


「あの、聞きたいんですけど」

「なんや? また質問か?」

「このゲームの初めに、殺しても生き返るって、言ってましたけど……」

「あー。それな。ほんまに生き返るで。安心せえ」


 雛乃と視線を合わせる。彼女は、ほっと息をついていた。僕も同じ気持ちだった。


「さーって、鬼ごっこの始まりや。で、ここにきて俺は囮作戦を提案したいと思う!」

「囮作戦?」

「そや。俺が囮になって一人で無警戒にぶらぶら歩くから、あんたらにはそれを護衛してもらいたい。自分らは知り合いのようやし、信頼できるやろ? 俺はあんたらを完全に信じたわけやないし、お互いの安全を確保できる。な?」

「……その言葉の裏は」


 雛乃がしずしずと口を挟む。


「裏切られた時に、真っ先に死ぬのは自分じゃないから?」

「正解」


 ジミィが言った。確かに一人でいれば、雛乃や僕が悪魔だとしたら狙われ難いだろう。先ほど彼は僕達を信用すると言ったけれど、それはきっと方便だ。ジミィは考えているのだろう。誰が悪魔だった場合でも、自分が損をしない方法を。


「……で、ここまで俺の思惑が分かって……どうする? この共闘、乗るか? 降りるか?」


 雛乃と顔を見合わせた。彼女は戸惑っているようだった。それは、僕も同じだった。


「あ、ちなみにこのゲーム、時間制限もあるからなー。たしか、ワンゲーム二時間までだったかな。あんまりに何にもしてないとペナルティもつくから気をつけろ? ゲームに参加する意思なしとみなされると――消されるで?」

「……青鴉くん、どうする?」


 じっと、上目使いで雛乃が僕を見つめてきた。僕は軽く顎を引いた。


「……やってみよう」

「よっしゃ! これより、仮人間チームの結成や。がんばろなー」


 ジミィの陽気な声が、ホームに響いた。

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