第17話 災厄と大魔王時代
というわけで。
駄女神アイリスの力で、私のギルドカードが改竄され偽造して作られた。
女子であることを隠したのは勿論、ステータスも本来よりも低く設定し、ユニークスキル《タイマー》もハズレっぽく演出する。
香帆も「あたしもやりた~い!」と言い出し、彼女のアビリティが低い内容でギルドカードを作った。
その間、アイリスがずっと思念で『今回だけですからね! 誰にも言わないでくださいよ! てか駄女神じゃありませんから!』などと延々愚痴っていたけど無視したわ。
こうしてなんとかルナからギルドカードを受け取ることができ、私は安堵の表情を浮かべる。
「じゃあ、僕達に見合うクエストを紹介してくれないか?」
「はい。ミオさんお二人だけだと、フォーリアの領土内に潜伏するモンスターの討伐となりますが……」
ルナは説明しながら、数枚の依頼書をカウンターテーブルに置いて見せてくる。
低級から中級のモンスターにより実際に被害を被っている村人達からの依頼ばかりだ。
したがって然程、報酬も高くないし前金もなく、報酬金も高いとは言えない。
(ほとんど慈善事業ね。これならソロで強いモンスターを狩った方が、まだお金になるわ……)
(確か、まだ近くに自ら『魔王』と名乗る魔族が潜伏している筈だよぉ。こっそり、そいつをヤっちゃえば、ローンも完済できんじゃね?)
香帆がアイリスを媒介して思念を送ってくる。
(それ、本当なの?)
(うん。でも、奴隷として売られる1ヶ月前の情報だけどね~。あたしを捕えた山賊達からが話していた内容だよぉ。なんでも聖光国フォーリアを侵略するため、国境付近で虎視眈々と準備を進めているとかっていう感じぃ)
(ということは、まだ侵略の準備をしている段階ってことかしら? 私が知る範囲でも、まだこの国が魔王に襲われたという話はなかったからね)
魔王にも色々な奴がいて、物語のように強大な力と軍隊を持つ本物や「俺は魔王になる!」というバトル漫画のノリで自称する願望魔族もいるとか。
現に少人数の魔族で大国を攻め落とし侵略したことで、魔王として大軍を持つまでになった者もいるらしい。
そういう出世話を聞けば、自分も夢を見たいと思う魔族がいても可笑しくないわ。
動画配信者ばりに流行りの如く増えていく。
それが異世界の抱えている問題であり、私が転移された『
まさに大海……いえ「大魔王時代」ね。
(けど未だに攻めることができず、もたついているようじゃ大した魔王じゃなさそうだわ)
きっと斃しても高額な『
(それでも普通のモンスターよりはレベルが高い筈だよぉ。誰でも自由に魔王を名乗れるわけでもないしねん)
『あまり同調したくありませんが、このギャルエルフの言う通りです。基本は邪神メネーラ(糞)の加護を得た魔族か、それ相応の魔力を持たないと「魔王」を名乗っても誰もついて行かないですからね』
香帆とアイリスの説明に、私は首肯する。
少数規模とはいえ魔王となれば、ある程度の実力は有しているということだ。
(次の目標は決まったわね。けど、それだとギルドのクエストとしては受けられないわ。今の「所持金0」状態じゃ、戦いの準備をするのもキツいわよ)
このままじゃ宿にも泊められないし、そういえば食事もまだだったわ。
ツケが利くのはショーンの武器屋だけだからね。
なら適当なクエストを受けながら、同時進行で行うしかない。
「――ルナ。前金は諦めるから、せめて宿と食事は面倒を見てくれるクエストとかないか?」
「はい。そういう条件なら、この三つが該当いたします」
ルナはクエスト依頼内容が書かれた三枚の用紙をテーブルに置いて見せてきた。
このクエストの中で、国境辺りに潜伏するとされる魔王軍が近くにいたら言うことないわ。
(香帆、どこかわかる?)
(う~ん……ここかなぁ)
香帆は一枚の用紙を手にする。
私はそのクエスト内容を黙読した。
【クエスト内容】
王都からかなり離れた辺境に位置するドッポという村がある。
以前から頻繁にスライムやゴブリンなど、低級モンスターによる被害はあったが地元の青年団や初級冒険者に依頼して事なきことを得ていた。
しかしここ数日前から、鬼猿「モノス」など強力なモンスターが出現するようになり、手に負えなくなっている。
村長から国に助力と対処するよう乞うも未だ視察にすら来てくれない。
知恵を出し合った苦肉の策で、手に負えないモンスターを領土内の森へ誘導して放って凌いでいるが、いずれさらに強力なモンスターが現れ収拾がつかない事態を招いてしまうだろう。
依頼する冒険者にはモンスターの討伐を行いつつ、これらの原因を調べて頂きたい。
尚、クエスト中の食事と寝床は用意してくれるとのことだ。
(……なるほどね。よく私が近くの森で狩るモンスター達も、案外ドッポの村人達が誘導して放って流れてきた輩かもしれないわね)
そういえば、モノスとか王都付近ではまず現れなさそうな奴とも遭遇して斃したわ。
例の魔王と名乗る魔族が国攻めに呼び寄せたモンスターかもしれないわね。
と考えれば、私達勇者を召喚する以前から既に『
(けど助けを求めているのに見にも来ないなんて酷くね? 税金払っているしょ~?)
(粗方、自分らの土地にあるモノは自分でなんとかしろって考えでしょうね。ましてや辺境村なら多少何かあっても簡単に切り捨てられる……あのヨハイン国王なら考え兼ねないわ)
損得勘定でしか人を判断しない王様だからね。
無論、誰にだってそういう面はあるけど露骨に出している時点で国を治める長としての資質が問われるわ。
『美桜さん! ここは勇者として早急になんとかいたしましょう!』
(あんた何、急に善光女神スィッチ入ってんの? やるわよ、けど今の状況じゃ無理に決まっているでしょ?)
『無理ってどうして?』
(一つは私達が文無しってこと、今の状態じゃ
ギルドは確か二つ以上のクエストを同時に引き受けられないと聞く。
魔王討伐は『
また森に入って、低モンスターを斃していくしかないわ。
(ドッポ村まで歩いても五日は掛かるね。辺境を舐めんなよ、駄女神ぃ~)
『また言いましたね、ギャルエルフぅ! そんな細かいこと、女神はいちいち干渉しませーん! 神様ってのは大局的に広い視野で物事を見て判断しているんですぅ!』
(ほらね、香帆。この大雑把ぶりで、私と弟を間違えて召喚しやがったのよ)
『み、美桜さ~ん、それは言わない約束でしょ、ね?』
(やっぱ駄女神じゃん。超ウケる~! やーい、ポンコツ! )
『はわわわ! 誰もウケなんて狙ってませんから! もう駄女神ばっか言わないでぇ!! ポンコツでもありませんからねぇ!!!』
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