第16話 相棒の装備依頼
「おっミオ、いらっしゃい。ん? その見慣れないエルフの子は新しい仲間か?」
「ええ、ショーン。ファロスリエンよ」
「ちゃお、リエンでいいよぉ。おたくがショーンっていう武器屋の兄さんだねぇ? 美桜のおっぱい揉んで弱味握られているっていう」
「揉んでねえよ、ちょっと触っただけだ! あの時は仕方ないだろ、ずっと男だと思ってたんだから……ってミオ、お前さん今日は女の姿なんだな?」
「ええ、王都だとこの方が歩きやすいからね。リエンも顔バレしてないし」
その代わり別の意味で視線を浴びていたけどね……特に男達から。
「昨日も言ったが俺としては、そっちの方がいいと思うけどな。それでここに来たってことは、そこのリエンって子の武器と装備が欲しいのか?」
「ええ、そうよ。早急に揃えてもらいたいの――ツケで」
「……わかったよ。その子に見合った上質なモン揃えてやる」
ショーンは溜息を吐きながら《鑑定眼》で香帆の職種とステータスを調べ、一通りの武器と防具を幾つか並べて見せてきた。
私は香帆に「ショーンと相談して好きなのを選びなさい」とだけ告げる。
「リエン、
「魔力付与で防刃系があるといいよね~。それと耐熱や耐寒とかのマントもあると便利じゃね?」
「おまっ、軽く1千万G超えんぞ! 金ねぇ癖に……わかった、なんとか揃えるよ! 半日くれ!」
「あんがとぉ、ション兄ぃ♪ んで武器になるけど、弓と矢はこれでいいんだけどぉ……」
香帆は
「そいつも中々の上質モノだぜ。皮が厚いモンスターの皮膚でも紙切れのように刃を通す代物だ」
「ふ~ん、んじゃこれ貰おうかなぁ。それと投げ用の小剣も数本いい?」
「ああ、わかった。けどツケだからな」
「あんがと。んで主力武器も欲しいんだけどぉ」
「主力だ!? ダガーあるじゃねぇか!?」
「これはサブだよん。あたし、あれがいい~」
香帆は壁に掛けられている武器を指差した。
それは大型武器で知られる『
ショーンは「はぁ!?」と呆れた口調で顔を歪ませる。
「あんなのやめとけ! 実用性があってねぇ武器だぞ! だいたい目立つし、アサシン向きじゃねえ!」
なんでも武器屋らしく見せるためのイミテーションとして飾っているだけだとか。
それにショーンが言うように、攻撃力は高そうだけど形状から癖がある武器なのは明白だ。
とても身軽で機動力を活かす、暗殺者向きではないようだけど。
「だったら折りたたみに改造してよぉ。ション兄ぃ、高レベルの
「お前……いつの間に俺のステータスを見たんだ?」
「あたしアサシンだからねぇ、これくらい余裕しょ。それと余程信用した相手でないと、ここまで自分のステータスを晒さないんだから光栄に思ってよねぇ」
香帆はニッと白い歯を見せて笑っている。
ショーンのことを気に入った口振りだ。
「……ここにもう一人のミオがいやがる。わかった、やるよ。その代わり装備類も含めて二日はかかるぞ」
「あざーす! んじゃ、弓矢とダガーと小剣だけ貰うわぁ」
「やらねーよ! 全部ツケだからな!」
こうしてショーンの店を出て、ギルドに向かった。
私は《
香帆は自分の顔を布で覆って見えないようにしてもらい、双眸と尖った両耳だけが布から露出して一緒に歩いていた。
わざわざ顔を隠させたのは、今はまだ大っぴらにするべき存在ではないと判断したからだ。
案の定、通り過ぎる度に周囲の民から冷たい視線が注がれている。
人の噂も七十五日というけど、完全に冤罪を晴らさない限り一生ものだと悟った。
「美桜~、今なら迷惑行為でネットに晒された奴らの気持ちとかわかるんじゃね?」
「うっさい! わかるかっての! 私はハメられた側だからね! 常日頃から後先考えて行動しているわ!」
どうせ『
けど受けた仕打ちだけは必ず倍以上にして返してやるけどね。
それからギルドにて。
「ミオさん、いらっしゃい。あら、そちらの方は?」
「ファロスリエンだよぉ。受付ちゃん、この強姦魔を見てもびびらないねぇ?」
「やめなさ……やめろよ、リエン! ルナ、このバカの言う事は聞かないで頂戴」
私達のやり取りに、ルナは優しく微笑み頷いてくれる。
「はい。私、ミオさんのこと信じることにしていますから」
「……へ~え。ルナっち、よろしくね~ん。あたしのことリエンでいいからね」
香帆は巻いている布を緩め、ルナだけに素顔を見せて片目を閉じる。
初見相手には冷淡で時に攻撃的だが、ショーンのように信用に至る人物だとわかると人懐っこくなるタイプのようだ。
「はい、リエンさん。それでミオさん、換金ですか?」
「今日は違うんだ。クエストを請け負いたくてね……できれば結構なお金になる大きなクエストで前金とかあるやつがいいんだけど」
「通常クエストは冒険者の個人レベルやパーティ人数やバランスに合わせてランクが決まり、それに見合ったクエストを紹介する流れとなります。ミオさんは元にせよ勇者なので特権でギルド登録不要でしたが、これからクエストを請け負うとなると登録が必要となります。リエンさんも同じです」
「……それって、僕のステータス情報がそちらに知られるってことですよね?」
「そうなりますが何か不都合でも?」
「いや、別に……」
首を傾げるルナに、私は言葉を詰まらせ視線を逸らした。
事前にアイリスから聞いた情報によると、ギルド登録の際に専用の魔道具を介して「ギルドカード」が作成され、それに自分のステータス情報が全て記載されていると言う。
なんでもカンストした《隠蔽》スキルを持っても偽ることが不可能なほど精密であるらしく、それもあって私はギルド登録する気になれなかったのだ。
しかし不味いわね……この際ステータス情報は良しとして、私が女子だってことがバレてしまうわ。
ルナにだけなら知られても構わないけど、上司のギルドマスターも勇者である私のアビリティに興味を持つ可能性があり、そうなればいずれ目を通す筈。
下手したらフォーリア王城にも知られてしまい兼ねないわ。
――今はまだ明かすべき時じゃない。
特に煮込み料理は時間を掛けるほど美味しく頂けるからね。
仕返しや復讐も同様だと思っているわけよ。
(はぁい、ポンコツ駄女神ちゃん! ここであんたの出番だぞぉ!)
『ガチこのギャルエルフ、ムカつくです! 少しは女神を敬えっての! ポンコツ言うーな!』
(ちょっと、なんで香帆までアイリスと思念でやり取りができているの?)
(そりゃあたしも美桜の『眷属』だし当然しょ~?)
『私を媒介して、こうして三人で思念のやり取りが可能となったのです。どぉ、女神凄くね? 尊敬した?』
(凄いし便利なのは認めるわ。尊敬は永遠に無理ね。それで打開策とかあるわけ?)
『う~ん、教えちゃっていいのかなぁ。けどルールに反しちゃうんだよなぁ』
(あんたの存在自体がルール違反じゃない。いいから教えなさいよ!)
『ひどっ! やっぱ美桜さん、エグいわ~。まぁ要するに、どのように精密な魔道具だろうと女神パワーで美桜さんの全ステータスを改竄し偽造することが可能ってことです』
((ならとっととそれやれよ、駄女神ッ!!!))
『駄女神じゃありませんからぁぁぁぁぁ!!!』
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