第18話 受付嬢の配慮
などと、私達が思念でやり取りしている中。
「ミオさん、ドッポ村のクエストにいたしますか?」
ルナが引き受けるか訊ねてくる。
私は頷くと、香帆がクエスト用紙を彼女に手渡した。
「うん、そのつもりだけど。仲間の装備を準備するまでに二日も掛かってね……その間、少し路銀も稼ぎたいんだけど、それまでクエストを予約するとかって可能なの?」
「ごめんなさい、聞いたことがありません。ですが二日間、他の冒険者が引き受けないのなら、二日後に引き受けてくださるミオさんのクエストです」
そう言いながらクエスト用紙をテーブル下へと隠した。
「ルナ?」
「ミオさんを信じています。ですから二日後、必ずこのクエストを引き受けて無事に果たしてくださいね」
「……ありがとう」
やばっ、久々に人の優しさに触れた気がする。てか異世界じゃ初めてかもね。
つい目頭が熱くなってきたわ……らしくない。
本当にいい女性ね、ヨハイン国王も彼女の姿勢を見習うべきだわ。
「ルナっち、益々いいねぇ。んで優しさのついでなんだどぉ、あたしらに食事代貸してくんない? 朝から何も食べてないのぅ……もう腹ペコなのよん」
香帆、その通りだけどあざとさを通り越して厚かましいわ。
いくら切羽詰まっても矜持は持つべきね。
「ならばギルドと併設しています、酒場に行くといいでしょう。冒険者なら多少のツケが利きますので」
「マジぃ!? 嘘、やったぁ!」
「助かったわ……本当、何から何までありがとう、ルナ」
「わ?」
「え、いや……助かったよ、ははは」
あちゃ、つい普段の口調で言ってしまった。
今の私は男子の姿で見られているから、明らかにオネェ系だと思われてしまう。
『美桜さん、オネェ系勇者も前代未聞です!』
(あんたが言ーな!)
それからルナの案内で、併設する酒場で食事を取ることにした。
悪評が広まっている私達にもかかわらず、店の主人は気前よくツケにしてくれる。
「ルナちゃんに感謝しろよ、兄ちゃん!」
まったくもってその通りだと思ったわ。
もう恩がありすぎて、ルナにはすっかり頭が上がらなくなってしまった。
同時にこのまま嘘をつき通すのも心苦しくなってしまう。
(時期がきたら、ショーンのように全てを話すとするわ)
そう割り切って、私は出された食事に手をつけた。
「――遅いっての!」
モンスターが出没する森にて。
香帆は
素早さに定評があるモンスターだろうと、彼女の動きを捕えることはできない。
エルフ族独特の身軽さに加え、高い技能スキル《隠密》を駆使して背後に回り首を斬り落としている。
その動作に一切の躊躇はない。
確か半年前に実戦デビューしたと言っていたが、とてもそうとは思えない戦いぶりだ。
「やるわね、香帆。私も奥の手を見せてあげる――《タイマー》!」
地面に剣を突き刺し、ユニークスキルを発動させる。
連動効果で一帯の時間を10秒間ずつ停止させた。
周囲には残りのコボルトが3匹、豚の顔と大柄の体躯を持つオークが5匹いる。
計80秒間、モンスターの動きを奪った形となった。
「敵が多いほど優位に働くスキルなんて末恐ろしいねぇ。これのどこかハズレなのぅ?」
「意図的にそう見せたこともあるけど……にしても、私の傍にいても『眷属』である香帆は対象とならないようね」
なら戦況により一緒に逃げることも容易となる。
ますます使えるスキルだわ。
私と香帆は悠然と停止したモンスターを狩って行く。
防御力の高い相手だろうと停止された間は無防備となり、簡単にクリティカルヒットを発生することが可能だ。
おかげで大抵のモンスターはオーバーキルで屠られた。
それから森の奥へと進み、似たような工程で戦い勝利を収めている。
回収した『
「これくらい溜まれば、クエストに参加できるわ」
「そっだね~。しかし美桜といると戦闘も余裕だわぁ。あとは攻撃力を上げるスキルを身に着ければ、魔王だって瞬殺じゃね?」
「弱点もあるから、そう容易には考えてないわ。けど斃したモンスターの中にリザードマンとか、明らかに格上の連中もいたわね?」
リザードマンとは蜥蜴と人間を組み合わせたような容姿を持つ、ファンタジーではポピュラーなモンスターだ。
知能も高く武器など巧みに使いこなし、下手な戦士よりも強いとされている。
魔王軍でも強襲兵として重宝されている存在らしい。
とても王都近くの森で出現するような相手ではないのは確かだ。
「例のドッポ村で誘導したモンスターかもしんないよぉ。ここまで流れて来ているってことは、その村の近くに魔王が潜伏して兵を集めているのは確実だねぇ」
「私もそう思うわ。今日はこれで終わらせて換金しましょう。少し贅沢したいわ」
討伐を終わらせ、再びギルドに戻り『
150万Gを手にして、酒場でのツケを払いそのまま夕食を召し上がった。
私は女子の姿に戻り、宿屋に泊まることにした。
この姿だとすんなり事が運ぶため、宿屋の主人も愛想よく部屋を提供してくれた。
「うひょ~! 久しぶりのベッドだぁ~!」
「馬小屋より遥かにマシね。あんたの装備が完成するまで二日あるから、ゆっくりしましょう」
無論、モンスター狩りは続けていくつもりだ。
あれから私のレベルも上がり、現在は「レベル17」となる。
《タイマー》があるとレベリングも超スムーズで楽ね。
このまま二日間、同じ工程を繰り返せばすぐにレベル20以上になるだろう。
香帆もレベルが上がったようで、「レベル19」となった。
彼女も私ほどじゃないけど、SBPの獲得が多い方でAGIとDEXを中心に振り分けている。
それから二人で公共の銭湯に行き、疲れを癒すことにした。
特に香帆は奴隷として売られてから1ヶ月以上もお風呂に入ってなかったこともあり、湯に浸かった際に「うぃ~、ガチ死ねるぅ!」と満喫している。
「えへへ、美桜ぉ~」
「何よ、急に甘え声を出して……キャラじゃないわ」
共に湯に入る私を一望しながら、香帆は妙にニヤついている。
「ガチでスタイル、ヤバいねぇ……こりゃ現実世界でも毎度、男子共にコクられていたわけだわ~」
女子同士で何を言っているのやら。
まぁ私は弟の真乙以外の男子に微塵も興味なかったから、その度に撃沈させてやったけどね。
「香帆だって似たようなもんでしょ? (あんたの場合、ガラの悪いチャラ男ばっかりだったけどね)」
この子のスタイルだって決して悪い方じゃないわ。
確かに胸は私より寂しいけど、色白の艶肌といい女子の私から見ても凄く綺麗よ。
『これって密かにムフフな入浴回ですね……二人とも性格に難がありますが、見栄えだけは本当に良いので女神から見ても華があります!』
悪かったわね、性格に難があって。
(オヤジか? けど今のあんたは
『いえいえ。アバターとはいえ初めて下界に降りてきたのですから、せっかくなのでわたしは満喫しますよぉ! ナイスですね~ん!』
何がナイスよ、こいつ裸監督か?
駄女神相手でも次第に身の危険を感じてきたわ……。
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