第10話 剥奪された女勇者
「――ぶっちゃけ、どうでもいいけどよぉ。異世界でも婦女暴行って結構な罪なのか? 罰金とか懲役ン年とか言い渡されちゃうわけぇ?」
何を思ったのか。
不意にハルデが口を開き訊いてきた。
「そんな生易しい罪ではないぞ、勇者ハルデよ。我が国フォーリアは、女神アイリスの教えもあり特に女性の尊厳を重んじる……ましてや神に仕える聖女への暴行となると極刑は免れぬぞ」
「つまりミオは死刑ってことじゃん、やべぇ! てか、そんなリスク冒してバッカじゃねぇの!」
国王の言葉に、トックが他人事として声を荒げて騒ぎ出す。
「まぁ、いたいけな乙女の操を汚したのだから当然じゃないのか? なんとも情けない奴よのぅ」
「……ったくイケメンの美少年なのに、欲情もセーブできないなんて猿以下ですね。イキっているだけの動画配信者かっての、ケケケ」
マーボとコウキも便乗して好き勝手に非難してくる。
まぁ、こっちこそ最初っから、あんた達バカに擁護してもらおうなんて微塵も思ってないけどね。
「んじゃしゃーないわ~。ミオさんよぉ、ここは犯した罪として、もう首かアソコをちょんぱされるしかなくね? ギャーハハハ!!!」
ハルデの癖に人の不幸を嘲笑いやがって……だからこういうタイプ大嫌い!
言っとくけど、あんたが言うアソコなんてついてないからね!
一方で陥れたセラニアは、私にだけわかるように国王の陰に隠れてニヤッと不敵な微笑を見せつけている。
さも「これで自分の立場をわかったでしょ?」と言わんばかりの笑みだ。
この女、ムカつくわ!
《タイマー》を発動して時間停止したら、この女をボコ殴りにしてから去ってやる!
「――ちょっと待ってください、皆様ぁ! こんなの可笑しいではりませんか!?」
クレア王女は振り絞るように声を上げる。
「クレアよ、可笑しいとはどういうことだ? 現にこうした証拠も揃っているのだ。勇者ミオがヤッちゃったのは明白ではないか?」
国王の癖にヤッちゃったとか言わないでよね。
「わたしには勇者ミオ様がそのようなことをされる方とは思えません! それに昨日の今日、この世界に誘われたばかりではありませんか!? 普通は世界に馴染めず戸惑われている筈ッ! とてもそのような余裕がなどあるとは――」
「わかってないなぁ、姫さん。男ってのは穴があったら、どこにでも入りたくなる種族なんっすよぉ」
最低な持論ね、ハルデ。
んなのあんただけじゃないの?
「しかし、極刑は納得できません! ミオ様はこの世界を救うために召喚された勇者様です! この映像だけでは、そうだと決まったわけではないではありませんか!?」
「ではクレア王女、わたくしのレフィが嘘をついていると?」
実際にその通りじゃない。
何、ドヤ顔で訊いているのよ。
「……いえ、セラニア教皇。そこまでは……けど、わたしは……わたし」
次第に言葉を詰まらせる、クレア王女。
昨日会ったばかりの私を必死で庇ってくれる健気な態度。
つい胸が絞られてしまうわ……いい子ね。
『美桜さん。ここはとっとと逃げるか、あるいは自分が「見た目だけの知的美少女」だと打ち明けた方がよろしいのでは?』
(誰が見た目だけよ、アイリス! そもそも、あんたの教えとやらで大事になっているんじゃない!?)
『女性の尊厳を守るのは当然です。そんな破廉恥な変態男はさっさと首ちょんぱされてしまえばいいのです! さぁ、観念してください!』
(ニワトリ頭の駄女神が! 私が女だってもう忘れたの! そっち系じゃないっつーの!)
私は弟の真乙にしか興味ないんだからね(極度のブラコン)!
とはいえ、少し状況が変わってきたわ。
このまま《タイマー》でバックレることもできるけど、クレア王女がここまで庇ってくれているし……正直この子には迷惑かけられないわね。
ならば、
「ではヨハイン国王、こうしましょう――僕を追放してください」
「つ、追放? 勇者ミオよ、其方は本気で言っているのか?」
「はい。僕は言われなき罪を認めるわけにはいきません。かといって、このまま堂々巡りするのも時間の無駄でしょう。ならば罰則として、僕を国外へ追放された方が丸く収まるのではないでしょうか。使命である『魔王討伐クエスト』は自力で行いますのでご安心ください」
「いや国外追放というのも……そのぅ大義上、あまりよろしくない。正直に打ち明けると、其方らを召喚させるのに同盟国から援助を受け莫大な費用が掛かっておる。大ハズレ勇者とはいえ、其方が辺境や他国へ亡命されると……そのぅ、アレだ。支援してくれた同盟国からもバツが悪いのだ」
大ハズ勇者なんて、まるで「勇者ガチャ」みたいなものね。
けど国王の言いたいこともわかるわ。
だとしたら、どうしろって言うのよ?
でも、その口振りだと極刑ってことはないようね。
私=他国の援助金で召喚された勇者だから、そう簡単に失うわけにもいかないようだ。
だから余計にハズレスキルってことで不満があり、何かとぞんざいに扱われているのね。
すると、セラニアがヨハイン国王に耳打ちしている。
国王は「うむ、よかろう」と頷いた。
「勇者ミオよ。望み通り追放の処分としよう。ただし、このフォーリア王城に限ることとする。その代わり国内の滞在は許す。したがって今後、余の許可でこの城の敷地に入ることは許さん。それは『勇者職』の剥奪を意味すると知れ」
「つまり、わた……いえ僕にフォーリア国の庶民になれと?」
「その通りだ。冒険者として活動することは許す。だが他国への亡命は認めん。あくまで貴様はフォーリア国の民だ。それだけは忘れるなよ」
勇者でなくなったからか、これまで以上に粗暴な口調で指示してくる、ヨハイン国王。
要するに、私を付かず離れずの位置で幽閉したいようだ。
別に国外へ行っては駄目だってわけじゃないし、クエストによっては他国へ入ることもあるだろう。
別に悪い話じゃないわね。
寧ろ理想に近い環境。
こいつらの束縛を受けないって点は願ったり叶ったりだわ。
「わかりました。ヨハイン国王のご配慮に感謝いたします」
「うむ。だが用があれば呼び出すこともあるだろう。その時は城に入ることを許可する。庶民としてな」
最後の一言はカチンとするけど、まぁいいわ。
おかげで自由を手に入れたようなものよ。
私は一礼して、謁見の間を立ち去って行く。
その際、周囲の騎士や神官達から「なんて奴だ……最低だな」と侮蔑する言葉が聞かれた。
ハルデ、トック、マーボ、コウキの四バカ勇者もニヤつき顔で「ざまぁ」と呟いている。
私を罠に陥れたセラニアは今にも吹き出しそうな姑息な笑みを浮かべ、べったりと国王に寄り添っていた。
そのヨハイン国王も「早く立ち去れ、しっしっ!」と野良犬扱いだ。
ただ一人、クレア王女だけは「ミオ様……」と心配してくれた。
フォーリア王城を離れた私は、振り返り奴らがいる城を一瞥する。
割り切っていたけど、嘗て現実世界でも味わったことのない屈辱感に苛まれていた。
「こんな仕打ち、生まれて初めてだわ。けど面白い……」
不思議に笑みが零れる。
激昂も通り越すと愉快な気分になってしまうのか。
『美桜さん、あんな目に遭ったのに面白いですか? 実はマゾでしたか?』
「んなわけないじゃない――上等って意味よ!」
その喧嘩、全部買ってやるわ!
言っておくけど私、物凄く執念深い性格だからね!
あんた達から受けた仕打ちは、必ず数倍以上に返してやるんだから!
どいつも覚えてなさいよ!
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