第9話 セラニアの本性
「セラニア教皇、何もそこまでなさらなくても……もう気にしてないと言ったじゃないですか。だからどうか服を着てください」
「お優しいのですね、ミオ様……ですが、わたくし初めて貴方様をお見受けした時から、そのぅ想いを寄せておりまして、明日旅立たれる前にどうしても気持ちを打ち明けたかったのです」
私より随分と年上そうだけど、実はショタコンなのかしら?
何かとフォローしてくれたのも、そういう想いがあったのね。
好意を持ってくれるのは嬉しいけど、どう考えても無理なものは無理ね。
セラニアは「ミオ様……」と呟き瞳に涙を浮かべ、こちらに近づいてくる。
下手な男ならこのまま抱きつかれてしまうけど、私はそういうわけにはいかない。
《
ましてや胸に飛び込まれてしまったら一発でアウトだ。
だって、セラニアより私の方が胸はある方だからね(負けず嫌い)。
案の定、セラニアが抱きつこう手を広げたのを見計らい、私は素早く回避した。
結果、彼女は一人で後方のベッドへと無様に倒れ込む形となる。
「……ミオ様?」
セラニアは身を起こし、私をじっと見つめてくる。
先程の艶やかで潤んでいた瞳とは異なる、不信感を募らせた視線。
「ごめんなさい。お気持ちはありがたいのですが、僕は貴女の気持ちに応えるわけにはいきません。どうか服を着てください」
セラニアが脱いだ司祭服を拾い、そのまま手渡した。
彼女は立ち上がり無言で着用し身形を整え終え、退出しょうと扉を開けた。
「――女に恥をかかせたこと、身をもって後悔してください」
去り際に恨み節を呟く、セラニア。
それは今までの聖女のイメージを一変させるほど、殺意に満ち溢れたぞっとするような表情に見えた。
バタンと扉が閉められたと同時に、私は深い溜息を吐く。
「見事にガチギレられたわね……けど想いがあるにせよ、あんな大胆なことをするような女には見えなかったのに……」
後々に知ることになるが、あのセラニア教皇はとんでもない女だってことが判明する。
彼女はヨハイン国王の愛人でもあり、その美貌で教皇の地位にのし上がったのだと言う。
だがセラニア自身は美少年好きで生粋のショタコンだとか。
なので、ああして好みの男子に対して見境なく寝屋に誘っているようだ。
「まったく初日からえらい目ばかり遭っているわ……疲れたから寝ましょう」
『そうですね、美桜さん! ここは英気を養い、明日に備えましょう!』
「呑気なこと言ってムカつく! 全てあんたのせいだからね!」
苛立ちを抑え、ベッドへと潜り込む。
この駄女神、いつか泣かしてやるわ。
ん? よく見たら、今更ながらレベル11に上がっていることに気づいた。
低級にせよ、16匹のモンスターを一人で斃したからだろう。
(獲得したSBP:70か。800に比べたら圧倒的に少ない数値ね……)
『な、何を仰います! 斃したモンスターと戦闘内容にもよりますが、1回のレベルアップで獲得できるSBPは通常で20~30でも多い方ですよぉ! 貴女ってどれだけデタラメなんですか!?』
そうなの?
以前のSBPはレベル10まで蓄積された成果だったのね。。
技能スキルのレベルも上がっているようだけど、明日振り分けることにするわ。
翌日、謁見の間にて。
呼び出された早々、場は騒然となっていた。
なんでも昨夜、この私が神官の子を手籠めにしたと言うのだ。
「――夜、レフィがわたくしの寝室に訪れ涙を流しながら、こう申したのです! 『勇者ミオ様に部屋へと誘われ、そこで無理矢理に乱暴された』と……なんて悍ましい! 紛れもない勇者にあるまじき行為! これは由々しき問題です!」
ヨハイン国王の隣で教皇のセラニアは半ギレ状態で発言している。
その前では、レフィと思われる神官少女が手で顔を覆って泣きじゃくっていた。
つーか誰よ、その子。
「勇者ミオよ、本当なのか? 其方、それは流石にアレだぞ……余も引くぞ」
なわけないでしょ?
そんな子なんて初見よ。
大体、女の私がなんでそんなことしなければならないのよ。
チャラ男のハルデならともかくね。
「違います。逆にセラニア教皇が『お詫び』と称して、僕を寝屋に誘いにきたくらいです。興味なく断った腹いせに、そのようなデマをヨハイン国王に仰ったのでしょう。実際、去り際に恨み節も言われたので」
頭にきたから正直にぶちまけてやったわ。
墓穴を掘ったわね、淫乱ショタ女が。
私の暴露話に当然ながら周囲がざわめき始める。
セラニアは青ざめ唇を震わせていた。
「わ、わたくしがでまかせを……なんて無礼な!」
「そうだぞ、勇者ミオよ。セラニアは由緒正しきアイリス神殿を治める教皇である。神に誓って嘘を言う筈がない。それにだ、其方が犯した罪の証拠とてあるのだぞ」
え? 証拠?
いや、そんなの可笑しいわ!
ヨハイン国王が指を鳴らすと、男の神官が
そこには私の部屋だと思われる扉から、レフィが泣きながら逃げるように退出する姿が映し出されている。
おまけに、さも手籠めにされましたと言わんばかりに神官服が乱れていた。
その映像を見た誰もが「なんと……」と絶句している。
クレア王女すら口元を抑え唖然としていた。
「こんなの捏造です! だって、わた――」
「だって?」
「……いえ、なんでも。とにかくそんなの、どうせ魔法でいいようにできるんじゃないんですか? そもそも僕はそこにいるレフィって子なんて知りません。初対面です」
「そんな……勇者様、酷い」
私の主張で、レフィは顔を伏せたまま嗚咽を漏らしている。
けどあんた、さっきから涙出てないわよね?
嘘泣きだってバレているんだからね!
けど周囲の反応は違っている。
明らかに私の方に疑惑の目が向けられていた。
どうやら予めセラニアが手回しているようだ。
「まさか勇者が聖女を手籠めにするとは……」
騎士達からも、ざわめきと共に言葉が漏れている。
そういえばこいつらも朝食時から、私を不信の目で見ていたわね。
つまりこれはデキレース。
最初から、私に罪を着せる算段だ。
中世時代でも適当な理由をつけて冤罪を有罪にして火炙りにされたという、「魔女狩り」なんかと一緒だわ。
無論、このまま裁かれるなんて御免よ。
最終的には私が女子だと明かせば、簡単に潔白が証明されるんだけどね。
けど、ここの連中を見ていたら、まだ手の内を明かすわけにはいかない。
これからのためにも、今はこの見下された立場を活かす必要があるわ。
だから、いざとなれば戦うか……いや逃げる方が無難ね。
こいつらは、私をレベル1だと思い軽視しているから油断と隙は十分に突ける。
それに私には《タイマー》があるわ。
見たところ周囲は、国王と王女とセラニアを含む四バカ勇者と冒険者達、護衛の騎士に神官と大体100人くらいかしら。
これだけの人数を連動させれば、約16分間の時間停止が可能となる。
余裕で逃げ切る時間があるわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます