第8話 誘われる女勇者

 初戦闘を終えた、私はアイリスの案内でギルドに訪れる。

 モンスターを斃すことで手に入れた菫青色アオハライトの輝きを持つ『魔核石コア』を受付で換金した。


「せめて10万Gになります」


(G? ゴールドね。日本円にするといくらなの?)


『約10万円くらいですよ』


 フェアリーのアイリスが耳打ちしてくる。

 翻訳機みたいで便利ね。


 低レベルのモンスター計16匹分とはいえ、思ったより高額だ。


「それじゃ換金してもらえるかしら……いえ、してください」


 危ない。思わず普段の口調で話すところだった。

 《視覚偽装トロンプルイユ》スキルで私の見た目は男子だから、オネェ勇者だと思われなければいいけど。


 綺麗な顔立ちに露出度の高い制服を着た、如何にもテンプレのような受付嬢は「わかりました」と返答し、銀貨10枚をカウンター上に置かれた。


『銀貨1枚で1万円分と考えてください。ちなみに金貨1枚だと10万円の単位となります』


(わかったわ。国王から貰った軍資金は銀貨20枚だから20万円か……異世界の物価にもよるけど、他の勇者より少額なだけに嫌がらせにも思えるわね)


 ともあれ、モンスターを斃したことで30万Gを手に入れたわ。



 換金を終え、そのまま武器屋へと向かう。

 アイリスの見立てで『あそこの店に掘り出し物がありそうです』と教えてくる。

 駄女神だけど一応は神様だし、言われるがまま店内に入った。


「いらっしゃい! おや? 初めて見る顔だな? 眼鏡の少年、あんた冒険者になりたてかい?」


 店の主人と思われる男が気さくに声を掛けてくる。

 20歳くらいの若い男であり、背が高く細マッチョの体つきだ。

 短めの金髪に青い瞳を持つ西洋人風で、体格の割には人当たりの良さそうな顔立ち。


「はい。ミオといいます」


「ミオ? ほう……あんたが噂の勇者様かい」


 男は一目で私の素性を見抜く。

 おそらく《鑑定眼》か。ということは、この男は冒険者でもあるようだ。

 私は凝視していると、男は「悪りぃ」と頭を下げて見せた。


「俺の名は『ショーン』、見ての通り武器屋の主だ。同時に鍛冶師スミスでもある。亡き親父の跡を継いで、この店を経営している。だから売上、客を知るためにスキルで調べさせてもらったんだ、すまない」


「いえ、別に……店内を見させてもらっていいですか?」


「ああ勿論。わからないことがあったら聞いてくれ」


 ショーンは気さくに言い、私は店内に飾られている武器類を見て回った。

 当然ながら様々な種類の武器が置かれている。

 剣、槍、弓、盾、鎧、中には何に使うか不明な物体もあった。

 それに武器だけでなく、回復薬ポーション類も一通り置かれている。


 しかし、


(……どれも高いわね。短剣だけでも5万Gはするわ)


『それだけ性能は折り紙つきです。武器の性能も《鑑定眼》で調べることができますよ』


 どちらにせよ、これじゃまともに装備を揃えることはできないわ。

 詳しくは調べてないけど、確か城内で用意された武器もこの店より見劣りする代物ばかりだった。

 あの国王、魔王を斃す気あるのかしら?


(この店で一通り装備を揃えるには、もう少し稼がないといけないみたいね……それを知っただけでも良しとするわ)


『美桜さん、妙なところでポジティブです』


 私は「また来ます」と告げると、ショーンは気さくな笑みを浮かべる。


「おおう、また来てくれ! モノによっては安くできるし、ローンも組めるから遠慮なく相談してくれよ!」


 ローン? この異世界にもあるのね。

 まぁいいわ。信用できそうな店だし、日を改めることにするわ。


 店を出ると既に陽が沈みかけていた。

 ふと空腹を感じた私は、酒場(飲食店)で食事を嗜むことにする。


 初めて目の当たりにする異世界料理だったが、普通にパンがあり味も特に問題なく美味しく食べられた。

 ただアイリスから「エルフ族の食事だけは食べてはいけませんよ!」と謎の念を押されてしまう。



 フォーリア王城に戻り、用意された部屋で休むことにした。

 他の四バカ勇者は何をしているのかわからない。

 てか興味がないので知ろうとも思わなかった。

 

「明日から魔王討伐のクエストね……まずは装備を揃えて、仲間を見つけなきゃ。課題は山積みだわ」


『そもそも美桜さんが素直にアビリティとユニークスキルを打ち明ければ、国王や周囲の信頼を得られたのでは? それに性別も、見た目だけはスタイル抜群の知的眼鏡美人なのですから、他の勇者にもヨイショしてもらえたと思います』


「……あんた、女神の癖にあざといわね。見た目だけって言葉もイラっとするわ。言っておくけど、これっぽっちも後悔してないから。逆に自分の判断は正しかったと褒め称えているくらいだからね。あのヨハイン国王といい、ほとんどの連中が信用できない……下手に英雄ぶってコキ使われるより、淡々と魔王を討伐して回った方が早く《災厄周期シーズン》を終わらせることができるでしょうね」


『自分を動きやすくするためですか? 仰る通り、今の美桜さんは完全に放置状態ですね』


「そっ。あんたがアドバイザーとして色々教えてくれるから回り道せず済んでいるし、今のところ思惑どおり順調で楽ゲーって感じ」


『舐めてますね。最近の異世界モノのラノベタイトルくらい、この世界を舐めてますよ。どうせ自分は才能があって何でもできるから超余裕~って感じですか?』


「……女神の癖にヘイトぶつけないでよね。私だって最初から何でもできたわけじゃないわ。物心ついた時からできるように沢山努力してきたからよ……大切な弟である、真乙を守るためにね」


 そんなやり取りをしていると、誰かが扉をノックしてくる。

 私は「どうぞ」と言い扉を開けると、そこには教皇のセラニアが立っていた。


「セラニア教皇? 僕に何か用ですか?」


「はい、勇者ミオ様。少しお話が……中へ入ってもよろしいでしょうか?」


「ええ、どうぞ」


 セラニアを招き入れ、静かに扉を閉めた。

 彼女は何故か、私が寝転がっていたベッドを一瞥すると意味ありげに微笑む。

 

 なんだか嫌な予感がするわ……。


「それでセラニア教皇、お話とは?」


「まずはヨハイン陛下に代わり、貴方様に謝罪をしたく」


「僕に?」


「はい。聖光国フォーリアが祀る女神アイリスによって導かれた勇者様に対して、あのような無礼の数々……正直、見るに見かねておりましたが、わたくしも国王に仕える身。クレア王女のように直訴するわけにもいかず……わたくし如きの謝罪で許されるのであればと思い失礼と承知でこうして訪れたわけなのです」


 そうなの?

 まぁそう仕向けた原因は、半分くらい私にもあるけどね。


「大丈夫です、少しも気にしていません。明日から魔王討伐のクエストに入るので、休んで良いですか?」


「それではわたくしの気持ちが収まりません――」


 セラニアは何を思ったのか。

 突然、身に纏っていた司祭服を脱ぎ全裸となった。

 真っ白な肌に理想的な黄金比率のスタイルが露わとなる。


「な、何しているんですか!?」


「ミオ様、どうかわたくしの体を御慰みください!」


 はぁ?


 いや無理だし。

 だって私、女だし。


 胸だってあんたより大きいし(負けず嫌い)。

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