第3話 異世界転移
気がつくと私は石柱に囲まれた広々とした空間にいた。
鮮やかで美しい模様のステントグラス窓から、日差しが降り注ぐように私を照らしている。
目の前には西洋風の祭壇に似た装飾が広がっており、清潔感が溢れる神聖な趣を感じた。
私の足元には幾何学模様の円陣が描かれており、煌々と光を宿している。
周囲には白装束を纏った複数の僧侶、いや神官が円陣を取り囲む形で立っていた。
「おおっ! 女神アイリスの導きにより五人目の勇者が召喚されましたぞ!」
「きっと強き聖なる力を宿しているに違いない!」
「これで世界も安泰ですなぁ!」
神官達が揃って感嘆の声を上げざわめき始めた。
勇者か……どうやら私のことを言っているようだ。
ということは、ここが異世界ね。
にしても、五人目の勇者?
そういえば、私の他にも転移者がいるんだっけ。
私は自分の身形を確認する。
転移する前の格好、黄昏高の指定ジャージを着用していた。
弟である真乙が心配のあまり、ろくに着替えずに出て行ったんだっけ。
どうやら誰かに虐められているようで、酷く落ち込んでいたわ。
そいつらを聞き出して、真乙が受けた倍以上の仕返しをしてやろうと思っていたのよ。
けど、気づいたら駄女神アイリスによって転移されていたんだけどね。
にしても私の姿……。
愛用の眼鏡もそのままだし、長い髪も後ろで縛ったままだわ。
おまけに胸もあるし、ブラもつけたままね。
まるっきり変わってない……。
あの駄女神め、またやらかしたんじゃないでしょうね!
『――美桜さん、ご安心を。《
耳元から、アイリスの声が響く。
視線を動かすと、すぐ間近で浮かぶ小さな物体があった。
いや物体というより、可愛らしい少女だ。
全体が掌サイズで、彼女の背には四枚の羽根を巧みに動いている。
銀色の髪に赤色の瞳を持つ、絵本に出てきそうな
「……あんた、まさかアイリス?」
小声で訊いてみる。
妖精の少女はこくりと首肯した。
『そうです。
「眷属?」
『従者とも言いましょうか? 眷属の契約を結ぶことで、勇者である貴女の指示に従い強化させたるなど、絶対に裏切らない仲間を作ることができます。ちなみに眷属は五人まで契約することが可能です』
「なるほど、奴隷契約みたいなノリね。美少女奴隷を買って、さもご主人様マウントを取った偽善的な愛情で身も心も絆れるぞ的な? けどご奴隷が暴走するか、あるいは主人様から堕ちるパターンもあるから、慎重に相手を選別しないと駄目ね」
『貴女って人は相変わらず身も蓋もない……ヘイトの塊ですか? まったくどんな視点で弟さんのラノベを読んでいたのか疑いますね』
「どうでもいいでしょ? それより話を戻すわ。つまり周囲の神官達には私は『男』として見られているのね?」
『はい、そうです。ですが気をつけてくださいね。あくまで視覚を騙しているだけなので……実際の美桜さんは正真正銘の胸の大きい知的な眼鏡美少女なのですから。見た目だけはね』
「最後の『見た目だけ』って一言はカチンとしたけど、まぁいいわ。要するに『触覚』までは偽れない、触れられたら女子だとバレてしまうってことでしょ?」
『はい、そのとおりです』
「わかった。気をつけるわ」
私は小さく頷き、《鑑定眼》を発動する。
更新した自分のアビリティを確認した。
【幸城 美桜】
職業:勇者(仮)
レベル:10
HP(体力):105 /105
MP(魔力):95/95
ATK(攻撃力):13→173
VIT(防御力):10→170
AGI(敏捷力):16→176
DEX(命中力):12→172
INT(知力):25→185
CHA(魅力):20→180
SBP:800→0
スキル
《怒りの鉄拳Lv.5》《狡猾Lv.8》《恐喝Lv.7》《統率力Lv.3》
《鑑定眼Lv.1》《隠蔽Lv.10》《
《アイテムボックス》
称号:
とりあえずSBPを全体的に160で割り振ってバランス良く強化させてみたわ。
私って何が得意かまだわからないしね。称号の補正で+50されるから、事実上は200越よ。
けど《恐喝》のレベルが地味に上がっているのは何故かしら?
それに初めて獲得した《隠蔽》と《視覚偽装》が既にカンストしているけど、どういうこと?
『わたしが直接与えたスキルだからです。カンストすれば大抵の人間から魔族まで誤魔化すことができますからね』
「へ~え、ポンコツでも女神ね。けどこんなことなら、もっと強力なスキルを要求すれば良かったかしら?」
『またまたぁ! もうズルはここまでですからね! アビリティだってレベル10では絶対にあり得ない破格級の能力値なんですから、あとは実力で頑張ってください! あとポンコツ言わないでぇ!』
「――よくぞ参られました、勇者様」
女の声と共に、神官達が一斉に離れ道を作り始める。
その中央に立っていた一人の女性がゆったりとした歩調で近づいてくる。
金色の髪にサイドテールに降ろし、青い瞳を持つ美しい顔立ちをした温厚そうな成人の女だ
他の神官達と異なる鮮やかな刺繍が施された神官服。ゆったりとした衣服から浮き出された曲線といい、スタイルの良さを伺わせている。
(アイリス、確認するわ。口に出さなくても私が念じれば、あんたとのやり取りはできるわけ?)
『はい。さっきも説明した通り、わたしの姿が見えてやり取りできるのは、この異世界において貴女だけですので……それが何か?』
(聞いてみただけよ。困ったことがあればアドバイスを貰うわ……)
私は女に視線を向けて口を開く。
「貴女は誰ですか?」
「わたくしは、セラニア。アイリス神殿の最高司祭であり、教皇を務めております」
教皇? この女が? 随分と若そうだけど……ぱっと見は20歳前半くらいかしら?
「私……いえ僕はミオと言います。ここは何処でしょうか?」
「聖光国フォーリアにある女神アイリスを祀る大神殿です。ミオ様は神の導きで、勇者としてこの世界へと召喚されたのです」
「そうですか。わかりました、それじゃ国王陛下に謁見させて頂いてもよろしいですか?」
私の問いに、セラニアは瞳を見開いてきょとんとしている。
「……ミオ様は随分と物分かりが良いというか、落ち着いておりますね。他の四人の勇者様は酷く戸惑い、動揺し、泣き叫び、中には暴れてしまったお方もおりましたのに……」
まぁね。事前に貴女達が祀る女神アイリスから聞いていたからね。
後、転移後は国王に会うのもテンプレでしょ?
「そう見せないようにしているだけですよ。抵抗しても意味がないでしょうし」
「なるほど、聡明な方のようですね。ではまず待合室にてご案内いたします。既に四人の勇者様方が待機しておりますので、共に顔合わせしておいた方がよろしいでしょう」
「わかりました」
こうしてセラニアの案内で待合室に誘導されることなった。
私より先に転移したという、四人の勇者か……。
一体どんな連中なのか?
正直、嫌な予感しかしないわ――。
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