第4話 四人の勇者(クズ)

「なんでぇぇぇい! また男かよぉぉぉ! 戦隊モノなら最後の五人目はキュートなピンクのカワイ子ちゃんじゃねぇかよぉぉぉ!!!」


「そうだね、ハルデ君。そりゃないよねぇ」


「随分、貧弱そうな男よのぅ! 飯食ってのか、ああ!?」


「……やっと後輩ができたぞ。へへへ」


 待合室に入った途端、ヘイトを浴びせられてしまった。


「勇者様方、この方が最後の一人、勇者ミオ様です」


「よろしくお願いします」


 私が頭を下げると、三人の勇者達は目を反らしている。

 ただ一人、隅っこの方で体育座りしている陰気そうな勇者だけは、私を見つめながら「へへへ」と薄ら笑いを浮かべていた。


 あんまり歓迎されてないのは確かね。

 どいつも私を男だと思っているようで、その点だけは胸を撫でおろすべきだわ。


 その後、セラニアから四人の勇者を紹介される。

 全員が高校生の制服を着ていることから、然程変わらない同年代だとわかった。


 そして入室した早々で叫んでいた男の名は「ハルデ」。

 顔立ちは割と整っており俗に言うイケメンの部類に入るだろうか。

 茶髪の髪に耳にはピアスと如何にもチャラそうな雰囲気で、迷うことなく私が大嫌いと思うタイプだ。


 もう一人は色々で背が小さい男、名は「トック」。

 ギョロとした双眸に薄い唇と、どこか爬虫類を思わせるような容姿。

 ハルデと同じ制服を着用しており、先程から彼を持ち上げている腰巾着っぽい奴。


 私を「貧弱」と罵った男は「マーボ」という名らしい。

 大柄の筋肉質で、さも考えるのが苦手で脳筋そうな雰囲気だ。

 ちなみに召喚された際、真っ先に暴れたのはこの男だと言う。


 最後に床で体育座りをしている男は「コウキ」。

 案外こいつの方が私よりも体形が細いかもしれない。

 長い前髪を真ん中で分けられ、目の隈がある双眸でじっと私を見つめている。

 陰湿そうでどこか顔色が悪そうだ。


 ……正直、微妙ね。


 どいつも癖がありそうな男子ばかりだわ。

 統一感もなさそうだし、互いに足を引っ張り合いそうね。

 まさかこれから、こんな連中と組まなければいけないのかしら?


 セラニアは一礼し、他の神官達を退出する。

 準備ができ次第、国王との謁見が待っているようだ。



 しばしの沈黙が流れる。


 暇なので《鑑定眼》で四人の能力値アビリティを閲覧してみたが、どいつもレベル1~2くらいであり、デカい態度ほどではない。

 まだ廊下で立っている衛兵達の方がレベルが高く強かった。


(ねぇアイリス、どうしてこの連中を勇者に選んだの? 私でも速攻で倒せそうなんだけど)


『最も「強き念」を宿している者達だからです。今でこそレベル1ですが、これから戦闘などで与えられるSBPや覚醒するユニークスキルに大きく反映していくでしょう。てか、この方達が転移者として普通ですからね!』


 フェアリーのアイリスが羽根を動かし目の前で浮きながら、その柔らかそうな頬を膨らませている。


(こいつらの基準が普通ならば、初っ端からレベル10もある私は確かにバケモノかもしれないわ。《偽装》スキルを与えてもらって正解かもね)



「――おい、お前ミオっていったな?」


 マーボという大柄の男が隆々とした両腕を組み、私を見据えてきた。


「はい、なんですか?」


「お前、随分と優男というか美少年だな? 実はアイドルか? 彼女いるのか?」


「いえ、普通の高校生です。彼女もいません」


 何が言いたいの、こいつ?

 脳筋そうだから何も考えず直感で喋っている感じだわ。


「フン! リア充なら俺も負けてねぇぞ! 現実世界じゃ、セフレばっかで選り取り見取りだったんだからなぁ! 特に異世界の女共なんてちょろそうだから、ラノベばりに満喫すんぞぉ、おーい!」


「やっぱ、ハルデ君凄いや! オイラもおこぼれちょーだい!」


 だから普通だって言っているじゃない。

 話、聞いてた?

 これだから同年代の男子は苦手なのよね。


「……ケェ、リア充共が。真っ先に死ねばいいのに」


 コウキは、ハルデとトックに向けて呪詛を呟いていた。


 なんなの、こいつら……待機している時点で個性がありすぎて、もうヤバイわ。

 同じ空気を吸っているだけで、私の脳まで侵されてしまいそう(元々男嫌い)


 仮にパーティを組まされたとしても、敵に追われたフリでもして離脱するしかないわね。



 間もなくして扉がノックされる。

 セラニアが訪室してきた。


「――勇者様方、準備が整いましたので謁見の間までお越しください。ご案内いたします」


 私達は頷き、彼女の誘導で広い廊下を渡り歩いて行く。

 しばらく移動すると大きな両開きの扉があり、武装した衛兵達が立っていた。


 セラニアが頷くと、衛兵達は「勇者様方のおな~り!」と大声を上げながら扉を開けた。

 その際、マーボが「おい、俺達のオナラがどうしたってんだ?」と真顔で聞いてきたので無視する。


 これまた広々した部屋だ。

 中央の床に赤絨毯が敷かれている。

 玉座に男の姿が見られた。


 あれが国王様ね。

 白髪で白髭を蓄えた初老の男性。頭に王冠を被り、赤マントを羽織っている。

 少し目つきが悪い以外は、典型的な王様って感じだ。


 そして左側に同年代風の若い女子が立っている。

 長く綺麗な茶色の髪、華奢でスタイルが良く、とても品があり幼さを残した可愛らしい顔立ち。

 身に纏うドレスも華やかで、国王の隣にいるという事は相当身分の高い、おそらくお姫様だと思った。


 さらに警備のため数十名の騎士達が部屋の両側で待機し固めていた。


 セラニアは国王に向けて一礼する。

 私達を中央まで誘導すると、そのまま一人で移動し国王の右側に立った。


「ようこそ勇者達よ。余が聖光国フォーリアの国王、ヨハン・ダース・フォーリアだ。隣にいる者は余の娘、クレア王女である」


 国王が名乗りを上げると、クレアという王女が丁寧にお辞儀をした。

 王女は私と目が合うと、何故か頬を染めて瞳を反らしている。


「其方らは我が王国を守護する女神アイリスの導きによって他世界から召喚された。今、世界は混沌を極めている。力のある魔族が自ら『魔王』を名乗り、大軍を用いて各国を襲い占領し、その勢いはこの国にまで及ぼうとしているのだ。我ら人間も力を合わせ、長きに渡り抵抗を試みているが未だ解決には及ばず、事態は悪化の一途を辿っている。この現状を打破するため、隣にいる教皇セラニアに依頼し祈りの儀式にて『勇者召喚』を行ったわけだ」


 尚、本来なら一国につき『勇者』一名の召喚というルールらしいが、魔王が複数誕生したことで女神アイリスが守護する国が次々と占領されてしまったため、今回の『災厄周期シーズン』に限り、五名の召喚を試みて成功させたと言う。


 なんだか厄介なことに巻き込まれたわね。

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