2-14話 同期の仲間

 宿の入口付近の談話室で、私は久しぶりに、同期のロランさん、ターシャさん、ミリィさんと話をしている。


「えっと、『第23番旧坑道』に行ってたんでしたっけ?」


 私がそう聞いてみると、ロランさんが答えてくれた。


「そうなんだよ。本当は安息日の日に帰ってこれる予定だったんだけど、いろいろあってさー」


 ロランさんは、この3人の中では最年長の19歳。背が高い男性だ。

 引っ込み思案だった私に対しても気さくに話しかけてくれるので、同期の中では一番話しやすい。私の事はちゃんづけで呼ぶ。

 髪は金髪で、耳の上くらいまでの長さの真ん中分け。

 今のジョブは弓使いだ。装備している革の胸当てがまだ新しい。


「廃坑って何所も同じような道ばっかだろ?だから迷っちゃって。

 敵はたいしたこと無かったんだけど、どんなに進んでも同じ場所だし、食料も底を尽きちゃうし、マジで焦ったよ」


 

「ロラン君が食い過ぎたからっしょ?

 アタシ、多めに持って行ったはずだったのにー」


 独特な話し方をするのはターシャさん。年齢は確か、私より1つ上の16歳。

 長い黒髪を後ろで馬のしっぽみたいに結い、前髪には青紫色のメッシュを入れている。

 魔法使いなので、服装もそれっぽい。ただ、よくある三角帽子は嫌いらしく身に着けないことにしているそうだ。

 彼女もよく話しかけてくれる。私の事はメルちーと呼んでくれる。


 

 そんな二人の話を静かに聞いているのはミリィさん。

 口数は少ないが、人との話に興味が無いわけでは無く、よく静かに頷いている。

 ジョブは武道家。

 一般的な武道家は、東国風のデザインの道着を着ている人が多いが、彼女は違い、南方の民のような服装をしている。実際そっちのほうの出身らしい。

 肌は褐色で、髪は銀色のベリーショートで、褐色の肌によく似合う。

 口数が少ないのは、この国の言語にまだ慣れていないからかもしれない。



 この街は『アム・マインツ』という名前だが、この辺りの昔の言葉で『魂の鉱山』という意味らしい。

 その名の通り、鉱山が多い。鉄や粘土、魔水晶など、数多くの鉱石が採れる。

 そしてそのぶん、廃坑も多い。

 3人がクエストに出ていた『第23番旧坑道』もそのうちのひとつだ。

 街の北東の方角でだいぶ遠い場所にあるが、敵モンスターの強さも、私が昨日行った森の次くらいには弱いので、Eクラスの冒険者が遠征で良く行く場所だ。


「もうね、同じところをぐるぐる廻っちゃってさ。

 やっとたどり着いた休憩所で、昨日自分達がキャンプした後を見つけた時は、もうほんと駄目かと思ったよー」

 ロランさんがどんどん話を続けている。


「あれ、でも休憩所なら、地図とかありませんでした?」

 私がそう聞いてみると、


「え、マジか!?」

 ロランさんが驚いてこちらを見る。


「え、ええ。鉱山なら休憩所にあるはずですよ」


「えー、でも廃坑っしょ?そんなの残ってたかなぁ~」

 

「……そういえば、机の中に、それっぽいの、あった……」

 ミリィさんが珍しく言葉を口に出す。


「え、マジ!?」


「図形みたいなものが付いた紙が、あった。今思うと、たぶん、アレが地図だったかも……」


「ちょ、ミリィ、気が付いてたんなら教えてくれよ」


「ごめん……地図だと、気が付かなかった……」


「ま、まあ確かに、初めて見る人だと読めないかもですね……」

 私はミリィさんにフォローを入れる。


「でもメルティちゃん、そういうの良く知ってたねー」

 

「私、子供の頃は鉱山近くの村に住んでて、それで何度か、村の鉱夫の人に見せてもらった事があって……」


「マジかー。じゃあ、次行くときはメルちーも一緒にいこーよー」

「えっ!?」

 ターシャさんにそう聞かれて、驚いた。


「だってメルちーも冒険者になれたんっしょ?じゃあ一緒に行けるじゃん」

 

「え、で、でも、まだレベル1ですし、そんな遠くに遠征したこと無いですし……」


「俺らもそんなすぐにはまた行かないよ。

 そのうちメルティちゃんもレベル上がるでしょ?ある程度上がってからでいいよ」


「うん……メルティ……地図読めるなら、来てほしい……」


「え、あ、その、考えておきます……」

 みんなに誘われるとは思ってなかった。嬉しい話だったのに、つい答えを保留にしてしまった。


「あ、でもメルティちゃんのジョブ……『スライム娘』だっけ?

 どういうジョブなのかまだ知らないや。

 どんなことが出来るの?」

 

 ロランさんに質問されてしまった。

 うん、当然だよね。自分で言うのも何だけど、かなり得体の知れないジョブだ。


「えっと……ざっくり言うと、スライムを操ったりします」


「え、じゃあ魔物使いみたいに、スライムをテイム出来るって事?」


「あ、いえ、テイムじゃなくて、自分がスライムの能力を使えるというか、なんと言うか……」


 今朝のネリーちゃんの案を参考に、とりあえずこんな感じに説明してみた。いずれはちゃんと全部伝える事になるとは思うけど。でもうーん、この説明で伝わったかな。

 


 

「よ、よく分からないな……」


「……ですよね……」


「うん、メルちーの能力、今度見せてもらおーよ!」

 ターシャさんがそう提案してくれた。


「そ、そうですね。実際に見て貰った方がいいですよね。

 あ、でも、ここではちょっと見せ辛いんですけど……」


「それなら、一度一緒に別のクエストに行こうよ。南南西の森のブル・アプサン採取とかどう?」


「あ、それなら私も昨日とおととい行きました!」


「よし、じゃあ決まり!

 明日……は俺たち休みにするから、明後日どう?」


「は、はい!」


 その日は、そういう結論でお開きとなった。

 ロランさん達と、仲間と一緒にクエストか……。

 そういうの、すごく憧れていた。やっとそういうことが出来るんだ。もう、冒険の時に孤独じゃなくなるんだ……。


 あ、でも、私の『スライム娘』のお披露目をしないといけないんだよね。

 それはやらなきゃと思っていたので覚悟はある。でも、いざやった時、皆に受け入れてもらえるかな……。




 

「え、メルティちゃん、それほんと!?」

「はい!明日一緒にって!」

 

 翌朝、冒険者ギルドでマリナさんにその事を話したら、とても喜んでくれた。

 

「良かったね……メルティちゃん、ホント良かったわね……」

 マリナさん、感極まって泣きそうだった。

 私も自分の事ながら、もらい泣きしそうだった。

 

 

 まあ明日の事は明日になってからという事で、今日は今日の事をしなくちゃね。


 私が今日向かうのは、やっぱりいつもの南南西の森。

 おととい未達成だった、ブル・アプサンの採取のクエストだ。


 明日は明日でブル・アプサンの採取の予定だけど、一応は『パーティー』で行うクエスト扱いになるので、『私個人』のクエストは、まだ未達成だ。

 別に重複して受けてもいいクエストだけど、一応区別してけじめはつけておきたい。

 それに、前回逃げ出してしまったままで明日のパーティークエストを受けるのは、なんだか心残りを残すみたいで嫌だった。

 今日は、できれば一角ウサギへのリベンジを。それが無理なら、せめてクエスト達成を。それを目標にしたい。そう思った。



 街を出て、南南西の森に入り、シリコン化を解除し、通常形態になる。

 おとといは怖くて怖くてたまらなかった森の奥を、私は目指す。

 新しいナイフの購入は叶わなかったけど、それ以外の事は一応解決できたはず。


 今日は、ちゃんと戦う。

 モンスターと戦って、ちゃんと強くなる。できれば、逃げずに。どうしようもないときはちゃんと逃げるけど。

 明日、ロランさん達と一緒にパーティーを組んでも恥ずかしくないよう、今日は気合を入れて戦おうと思う。


「……よし!」

 私は、森の奥に進みだした。


 


 今日は、見張りのカラス達もいない。大ガラス達を倒してしまったせいだろうか。

 静かな森の中を、いつもの姿で這いずって進む。


 気配はちょっと感じる。小動物に混じって、どうやらモンスターの気配も。

 しかし、襲ってはこない。

 そういう相手なら、私も無理はしない。さすがに手あたり次第魔物と戦ったりはせず、慎重に行動する。


「あ……」

 正面遠くに、ちらっと影が見えた。

 一角ウサギだ。数は1匹。

 おととい私を襲った相手かどうかまでは分からないけど、同じ種族。


 向こうも、私の気配に気が付いた。

 

 私の姿にやや戸惑いながら近づいてきた一角ウサギだったが、私を避ける気配も無い。警戒しながら近づいてくる。

 きっとこのまま戦いになる。このもう少し先が、私と一角ウサギの戦う場所になりそうだ。

 


 リベンジマッチだ。

 今日は準備も万全。

 今度こそ、一角ウサギとちゃんと戦う。

 

「よし、来い……」

 一足先に戦場へ到着した私は、一角ウサギを待ち受けた……。






 

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