幼馴染がお見舞いに来た

 僕が倒れたその日、夕方になって病室に戻ると、そこには僕の友人が二人いた。

 

 桜庭遥さくらばはるか池澤優斗いけざわゆうとだ。

 

 二人は僕の幼馴染で保育園からの仲だ保育園小学校中学校高校と同じ腐れ縁である。

 ちなみに言っておくと優斗と遥は恋仲である。


 二人とは普段から一緒にいて、特に優斗は中学校で同じ部活をしていた事や付き合いが長いもあって、高校のクラスメイトの中でも一番仲が良い親友だ。


「よう、湊。大丈夫か〜?」

「湊、大丈夫?」


 優斗は少し煽るような口調で、遥は本当に心配そうに僕に聞いてきた。


「うん、今は痛みも引いてきてるから大丈夫。流石に触ると痛いけどね。」

 

 ベッドの横の椅子に座っている二人の横を通って僕はベッドに横になる。

 

「そりゃ痛いだろ、あんだけ血だらけだったら痛いわ。」


 呆れたように言い放つ優斗に、僕は苦笑いしかできない。


 そういえば、と思い、単純な疑問をぶつけてみた。

 

「どれくらい血が出てたのか、僕はあんまり知らないんだけど...どのくらい流れてた?」


「あーお前意識なかったもんなあ。」

「えーっとそうだなあ、大体、床が真っ赤に染まるくらい?」


 うん、ちょっと具体的な量が想像しにくい。


「まあ、それは置いとくとして、」


 ここに来て、今まで言葉をほとんど発していなかった遥が口を開いた。


「これ、私とゆーくんからのお見舞いね。」


 そう言って渡されたのは5本のガーベラと袋詰めされたお菓子達。


「さっき花屋で買って来たんだ。お見舞いにオススメなんだってさ。」


 ガーベラ、たしか、花言葉は希望、だっただろうか。

 たしかに無難でいいと思った。


「ありがとう、遥」

「ん、どーいたしまして。」


「そうだ、見舞いと一緒にこれ。」 

 そう言って、優斗はプリントの束を渡してきた。


「えーっと、これは?」

「ん?今日の分の教材。」

「……いらない。」

「ダメだ。受け取れ。」


 僕はもらった2つの束を見比べながら大きなため息をついた。


「はあ、これ課題?」

「そうとも言う。でも次来るときに渡せばいいからそんなに苦じゃないだろ。」

「とか言っておきながらおおかた明日も持って来るんだろ?」

「さあ?でも、たぶんないと思うぞ?そのプリントの内容ちょっと見たけどまだやってないとこのプリントもあったし。」

「そうなの?ならいいんだけど、」


 そう言って優斗と話していると、遥が部屋の水道で花瓶に水を汲んできてくれた。


「はい、水汲んどいたよ。」

「ありがとう、遥。」


 僕は水の入った花瓶に色とりどりのガーベラ達をそっと生けた。


「湊はもしかしたらもっとかわいい花のほうがよかった?」


 ふと、遥が微笑を溢しながらそう聞いてきた。

 

「え?なんで?」

 

「湊って花は小さめの主張の少ない花のほうが好きだから。」


 流石に幼馴染というか、花の好みまで知ってるとは、言ったことなかったと思うのに、

 

「まあ、主張の少ない花のほうが好きなのも本当にだけど、こういう花も好きだよ。」


 そう言うと遥は途端にほっとした顔をした。

 

「そっか、なら良かった。優斗ってめっちゃ急いでたからお店のオススメで買っちゃってさ。」

 

「なるほど。」

 

 何が病院のお見舞い日向いてるか考えてるうちにわかんなくなって来て考えるのが面倒になって店員さんのオススメの花にしたんだろうな。

 

 そうわかると僕の顔から少し苦笑いが溢れた。

 遥は誤魔化すのが下手だ。

 優斗も横目で遥を見ている。


「まあ、本当に急いでいたのかはさておき、今日の授業のノート見せてくれない?できれば遥。」

「おい、俺のでいいだろ。」

「嫌だよ優斗のノートぐちゃぐちゃで見にくいんだもん。いろんなとこにいろんなもの書いてあるじゃん。」

「うっ、」


「ふふっ、たしかに優斗ももうちょっと上手に板書取れればいいんだけどね。」

「だよね~。」


 僕はこの後しばらく二人に今日の授業で二人が習った範囲の課題を教えてもらいながら終わらせた。


 課題を終わらせた頃には外は暗くなり始めており、二人は「また来るわ〜。」と言って病室を去って言った。


「やっぱり、誰かが帰ったあとのこの静けさはだいぶさみしいな。」

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