無口なあの子の心模様
霜月 海
入院編
始まり
昼、食事を終えて病院の個室で昼寝をしていると誰かがゆさゆさと僕の体を優しくゆさぶった。
僕は眠い目を優しくこすりながらあくびをして、僕を起こした人物の方へと向き直る。
そこには病室備え付けの椅子に浅く腰掛け、こちらを見ている僕の姉、
「あれ、姉さん?というかここどこ?」
「病院よ。何があったか覚えてない?」
うーんと、
たしか……僕は今日、学校で先生に資料を職員室から教室まで運んでくれと頼まれて、教室に向かう途中の階段で足をすべらせて転んだんだったか?
「一応は覚えてる。」
「なら良かった。それよりも
「もう流石に大丈夫。痛みも引いてきたよ。」
「そっか、なら良かった。」
姉さんが学校の職員から聞いた話によると、僕はその時、階段から滑って転んで資料を床にばらまいて階段の角に頭を打って気を失ったそうだ。ついでに強く頭をぶつけたおかげでかなりの量の血が流れており、大急ぎで救急車を呼んで、結果、救急車で病院に運ばれ今に至る。
という事らしい。
僕が通っていたのは普段から人通りの少ない道だから相当鈍い音がしたんだろうか?
頭に包帯がぐるぐる巻かれていることからも、おそらく本当のことだろう。
「そういえば、姉さん今日、大学は?」
姉は大学生で今日も大学の講義があったはずだ、まさか休ませてしまっただろうか?
「今日は大学はもう終わったよ。バイトは……休んだ。」
「うっ、ごめんなさい。」
思いがけず、罪悪感で押しつぶされそうになる……
「いいのいいの。気にしない。」
「あ、そうそう担当のお医者さんが言ってたんだけど、どこの骨も折れていたりはしていないけど、流血するくらいにしっかり頭打ってるから一応2週間くらいは入院だって。」
2週間……かなり長い気がするが普通それくらい入院するものなのだろうか?
まあ、うちの姉は少しばかり僕に対して過保護なところがあるから姉がなにか言ったのかもしれないけど……
「そっか、思っていたよりも長く入院することになるんだね。」
そう言って僕は頭の包帯が巻かれている部分に出来るだけ優しく触れる。
電流が流れるように痛みが僕を襲い、途端に傷口がズキズキと痛みだす。
「ッツー……」
声にもならない声を上げて顔を
「バカね、まだ治ってないんだから、あんまり触っちゃだめです。」
と僕を優しく叱った。
うちの姉は本当に優しくていい姉だ。
つくづく僕はそう思う。
「入院中に欲しいものとか、ある?家にあるものなら持って来るよ?ないなら買って来るけど。」
「特に今必要ってものはないかな。」
「そう、じゃあまた来るから。何かあったらちゃんと連絡すること。いいね?」
「子供じゃあないんだからわかってるよ。ありがとう、姉さん。」
「あ、着替えはそこの横にある紙袋の中ね。」
「わかった。」
「じゃあお大事にー。」
ガチャン、と扉が閉まる音がして、僕のいる病室は途端に静寂に包まれる。
いつもなら静かな空間やゆっくりと流れる時間は好ましく思う僕だがあまりに長い時間この状態で過ごすのは流石に僕も暇になるというもの。
ということで暇を持て余した。僕は今、病院の中庭にいます。
僕はベンチに腰掛けるもすることがなくてやっぱりここでも時間を持て余してしまう。
幸いな事に今は秋、最近夏の暑さが和らいで来た頃で、このタイミングで外に出ても大して暑くもなかった。
しばらくベンチに腰掛け足をぶらぶらと揺らしながら鼻歌で最近流行っている「夜明けの空」という曲をゆっくりと歌う。
「平和だねー。暇とも言うけど、」
ゆっくりと流れる時間の中を僕はブランコに揺られているかのようにゆっくりゆっくりゆったりゆったりと過ごしていく。
しばらくベンチに腰掛けながらゆっくりと鼻歌を歌っていると、一人の女の子がふと僕の目に入った。
身長は小さめで僕と同い年か僕よりも歳下くらいだろうか。
あどけなさを残した顔立ちは見る者を惹きつけた。
可愛らしい子だな。
一目みたときに僕はふとその子に対してそんな感想を抱いた。
その子は中庭の日陰になっているところでスケッチブックを広げ、何かを描いていた。
僕のいる病院はこの近くでは大きめの病院だが、都会にあるような大きい病院というかわけでもない。要するに中規模の病院だ。
そんな場所に僕と同い年くらいの子が入院している。
あの子も何か怪我をしてここに入院しているのだろうか?
そう思ったが、すぐさま、それはないと思い直す。
流石にあんなにダサい理由で入院するのは僕だけだろう。
それよりも僕は名前も知らないあの女の子の事が気になった。
また、どこかで会えるだろうか?
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