第5話
もう一度顔を上げて逃げようとすると、目の前には人がいた。
誰だろうか、3人くらいかな?いや4人いる。
「おかあさんとおとうさん?」
「大きくなったな、葵。」
「どうして?」
「昔話したよね、いつか葵に好きな子ができたら葵が選んだ人なら大丈夫だって、あなたをきっと守ってくれる人なんじゃないって。だから大丈夫。その人はきっとずっとあなたと一緒にいてくれるよ。」
2人はそんなふうに言いながら背を向ける。
「じゃあな、葵。普通の日常を楽しく生きるんだよ。」
「待って、2人とも!」
2人に手を伸ばす。お母さんの肩ぐらいを掴もうとしたら自然と捕まえれた。
そこに手を回すと。
「あんた、こんなとこで何してんの?」
「え、舞香。」
「あんたこんなスキンシップする子だっけ。ホームシックにでもなった?」
「おーい!」少し遠くから低い声が聞こえる。
「何、また痴話喧嘩?あんたたちも懲りないね、早く仲直りしなさいよ、好きなんでしょ?もう」
そう言って立ち去っていく。
つい先程。
俺は携帯を見ながら呆然としていた。相手は葵の友達の舞香だった。そこで俺は葵の過去を知った。
(あの時、嫌がらせで1番嫌がってたのが制服だったのは自分で制服の代金を支払わざるを得なかったからか。それにイジメの真実を伝えられる1番の信頼を向けるはずだったであろう両親がいないから。)
もう一度気を振り絞って俺は葵を追いかける。
「はー、やっと追いついた!」
2人のあらい息が無音の校舎裏にひびく。
「お前がどんな思いを抱えても、俺は絶対お前と一緒にいる。だから俺と付き合ってください。」
「絶対、なんて簡単に言わないでよ、いつかあなただって死んじゃうかも。」
「なら俺はお前と離れないで1人にしてあげないよ。ずっと一緒にいる。」
「やっぱり無理」
怖い。葵にとってそれだけなんだ。でも、人はただそれだけで何も出来なくなってしまう。でも、同じように。誰かの言葉で勇気を紡いでこれたこともある。あの日の体育の『大丈夫』の言葉みたいに。そして今、それを原動力に誰よりも人を想うこともできるんじゃないか。俺は思った。それだけでも十分儲けものだ。
踏ん切りがついたと思う。
「そっか、じゃあ俺帰るわ!」
きっと俺の選択は間違っていない。過去の葵を縛る呪縛から葵を救えなかっただけだ。
こうして俺の恋は終幕を迎える。
文月が帰ろうとする。待って。何か言わないと。私は、、、私の気持ちは!
朝起きて夜寝る時、まず誰を思うのか。
それは他でもないあなただった。これはその場しのぎの言葉じゃない。だから。
「私も、好き、夕のこと。やっぱり夕と付き合わないのが無理、みたいな。」
私は体が芯から熱くなるのを感じる。気を紛らわそうと、肘の関節あたりに反対の手を添える。そして、夕のことをみる。
夕も私みたいに顔が真っ赤だ。
すると。夕は私を抱きしめてきた。
「ややこしい言い方すんなよ。もう寂しいことなんてないからな。いつか急に訪れる別れよりも普通に生きれる今日を一緒にすごそう。」
「うん、」
私の声は掠れていた。
余談だが、夕のやつは舞香に私のことを聞いていたらしい。舞香が言うには
『葵を任されるのは文月くんくらいだから、恋のキューピットに免じて許してよね』らしい。
まったくどこまでいっても親友は変わらないのだろう。
ところで私は気になっていることが二つあった。
昔の夢で見たあの王子様みたいな人は誰だったのか。
そして、あの日見た4人目の人物は誰だったのか。
「おい、葵。駅着いたぞ。映画見に行こう、て言ったのはお前だろ。」
「ごめん、すぐ行く」
だけど。そんなことはどうでもいい。
だって今は夕が私だけの王子様だから。
いや、夕こそがあの人だったり、、なんてね。
(ありがとう、私の大切な人たち。もう手放したりしないからね。)
もう怖がらない。私を1人にさせてくれない王子様がいるんだから。
隣の王子様(否認)と甘い苦い恋をした、 かむとぅるーまん @kanatothisisapen0716
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