第3話
それからわたしは再び登校した。事情を知ってる舞香は平然としていたが、文月が割と心配してたのがこう、なんかちょっとだけうれしかったのは内緒の話だ。
でも女子群たちの嫌がらせは止まらなかった。
1日をとりあえず凌いで帰ろうとしたときに琴葉に校舎裏に呼び出された。
「最近学校きてなかったじゃん。どうしたの?大丈夫?」
思ってもないことを、と思うが私はだまって彼女の話を聞き続ける。
「あなたが休んでる間に文月くんと話そうとしたんだけど、避けられるわ、無視されるわでショックだったんだよね。」
「アンタなんかした?」
「し、してないよ。だって文月と最近全然話してなくて、でも
「うるさい、文月くんのこと気安く呼ばないで、てかずっと焦ってんのウケる、そんなにいえないことがあるの?」
あー分かった、と琴葉は嘲笑気味に続ける。
「夕くんへの好きな気持ちか、私たちと一緒で彼のこと好きだもんね。あはははは」
彼女の目は笑っていなかった。ここで逃げてもいいのだが、それをすると、また女子群たちの嫌がらせが激しくなるから立ち去れない。
「もういいよ、彼と私の世界に入ってこないで。」
彼女は手に持っていた水入りペットボトルのキャップを捻る。そして、私に水をかけようとして来た。
流石にこれはまずいと思って、手で顔の周りを守る。手だけじゃ服や髪まで守り切れないのに。なぜ顔を守るんだろう。大事だからかな。
いや違う、水からじゃない、この状況から目をつぶってどうにかして逃げようとするから目をつむるんだ。
めんどくさい、ただそう思った。あの日から、普通の日常を大切にするようになったのに。
もう全てがめんどくさくなって、守る手も緩んだ。
洗濯面倒だなぁ、はあ。
少しでも感情を落ち着かせるためにどうでもいいことに思考を移す。
しかし違和感があった。
私はびしょ濡れになっていない。
そこで考えられるのは、誰かが身代わりになったことか彼女が水をかけるのをやめたくらいだ。後者はまずない。だって水が誰かにかかる音がしたから。なら。
私がその人物を確認するために目を開ける、しかしその前に誰かが言った。
「大人しく聞いてれば、お前の愛情の矛先はだれにむいてんだ?」
それは聞き慣れた低い声だった。
「も、もちろん文月くんだよ、聞いてたならわかるんだけど。」
文月は制服の袖で汗のように流れる水を拭いながら、
「いいや違うね。あんたが1番好きなの自分だろ。俺がお前と話さないのは何でだ?俺がお前を避けるのは理由があるとは思わなかったのか?もしかして好き避けとか言うくだらない妄想をしてたわけじゃねえよな」
文月はいつにもなく饒舌だった。何故そこまでするのかは、私自身にはわからなかったが、琴葉には分かっただろう。何故なら文月は初めて見せる目をしていたからだ。
それは少なくとも琴葉が文月を好きだったという証明でもあるのだが、結果として琴葉は報われない。
何故ならその目は好意に満ちていた、、、葉月への。
「あんたは人を好きになっている自分が好きなんだろ。恋するわたしは葉月なんかより可愛いって。人を好きになるって言うのは優先順位に自分よりその相手を置くってことなんだよ。
その人のためなら一本しかない傘だって渡してあげられる。かけられそうになった水にでもかかってやれる!」
琴葉は認めざるを得なかった。
2つの事実に。
彼女自身が本当に愛していたのは自分だったこと。
そして。
文月夕が好きなのは、葉月葵であることに。
「そんな、文月くんはわたしのことをいつかきっと、だって」
一方の文月は自分が私を好きなことを言ってしまったのを知ってか知らずか私の方を見て微笑んで、
「付き合いきれないな、行くぞ、葵」と言った。
え、初めて聞いた。文月が私のこと名前で呼ぶなんて。
彼は私の手を握って走り出した。
その暖かさは、どこかで感じたことのあるものだった。それは、いつかに見た夢の温もりだ。
繊細に覚えてるからきっと間違いではないのだろう。
きっとあの夢の人物は彼のような人間なんだろう。と言うところまで考えたらわたしはあるところまで思考が行きつき顔を真っ赤にしていた。走って疲れたわけじゃない。これはもっと暖かくて切ない感情だ。
「///」
私は何も言えなかった。仮に彼がその人物なら彼は私を迎えに来てくれた、、、だから私は、
私と文月はしばらく走っていた。琴葉を振り切って5分くらいずっと走っていたかも、体感はそれくらい長く感じた。それはなぜか。いやそんなことより、
「あんたさっき、私のこと名前で、、、!
ていうか好きな人ためなら水にだってかかってやれるって、」
「そ、そんなこと言ってないけど。名前を言ったことは認めるけど、葵。」
「ッ」
文月は恥ずかしいようなことを簡単に言ってしまう。多分さっきの一連の出来事のせいでアドレナリンが出てしまっているのだろう、そう思いたい。
「いーや、あんたははっきりと言ってたよ。その人のためなら一本しかない傘だって渡して上げられる。かけられそうになった
「分かったよ!」
私の牽制を遮るように彼が話す。
その時私は彼の言葉をどのように期待していたのか。
『あの時は言葉の綾で、、!』とでも言うと思ったのか。
『たまたま例に出しただけだよ!』とでも語らうのかと思ったのか。
私は私の浅はかさにまだ気づいていなかった。
彼から発せられた言葉、それは。
「好きだ」
私はあまりの衝撃に何か妥当な返しができなかった。
「え。」
「葵の優しい部分とか、たまに出す弱い部分とか、後先考えない危なっかしい部分とかそう言うのひっくるめて全部お前が好きだ!」
文月が私を、、好き、、?
率直な気持ち文月からの告白は嬉しかった。だって、私も彼を他の人よりも好意的に思ってるから。
でも、私には明確に誰かとトクベツな関係になってはいけない理由がある。それを隠すためにはなんと言おう。
例えば、琴葉みたいな女子群の人間からの嫌がらせが増えてしまうんじゃないか。
こういえば、私の本心を打ち明けずに文月を遠ざけれるだろう。しかし私が口を開く前に文月が痺れを切らしたように、
「あ、葵の気持ちを、聞かせてほしい」
付き合うか付き合わないか、それ以前に断るとしてどんな言い訳が使えるか、とにかく混乱していた私は一つの思考の出口を見つける。
彼に背を向けて走り出す。
逃げた。そう逃げたのだ。
「え。おい待てよ!」
彼との追いかけっこが始まる、、、。
と思いきや。
私は、うっかり忘れていた、、、
(そうだ、アイツ私より足速いじゃん!)
そう思った時には遅く、彼は私の腕を掴んでいた。
「離してよ!」
私はつい激昂してしまった。
「ッ、話すかよ。何で何も言わないんだよ。俺が付き合うのに足らないならそう言ってくれよ。じゃないと踏ん切りもつかない。」
「、、うの、、、ち、う。」
え、と思わず文月が反応する。
「違うの!私は文月と付き合える自信がないの。私が大切にする人はすぐ消えてくから!わたし誰かを好きにならない!なってはいけないの!」
そう、私は3歳くらいの時に事故で両親を亡くしていた。家族の帰省で片道2.3時間かけて行けるお母さんの実家の静岡に行く途中の高速道路での出来事だった。
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