第2話
お昼を終えてお弁当を片付けたりするために教室に戻り、次の授業の準備をする。
「今日体育マラソン?えーやだな」
「しょうがないでしょ、サボったりなんてできないんだから。」
いや食後がダメなの!、なんて怠ける舞香とそれを制する私は今一度外に出ようと玄関口に向かった。
そこには、また奴がいた。
しかし、彼の表情はさっきとは180度違った。
「はあ、だるい。めんどいからいいや。休んでも成績はさして変わんないしいいだろ。保健室行こ。」
私は憤りを覚えた。彼の顔を見たからではない。彼の態度がむかついたからだ。内面をさらに嫌いになってしまっては教室の隣人として気まずいったらありゃしない。
「何で体育の授業受けないのよ。」
「俺にとって体育がつまらない事実があるからだろ。俺が走らなくても誰も困らない。俺が走ると、またウザいのが声をかけてくる。」
それを聞いた私はこう思った。彼は私より運動が得意だし好きなはず、それなのに彼が楽しめないのはなんて言うか可哀想だ、と。
「、、、あんたがここで帰るのはダメよ。」
私は文月の行手を遮るように両手を広げて大の字を作るように構える。
「やってみないと分からないでしょ?大丈夫もし女子が声をかけてきそうになったらわたしが助けてあげるから。」
彼は今まで信じられていた常識が否定された時のような驚愕を醸し出しているくせに、それでいて期待を宿した目でわたしを見つめてきた。
「分かったやるよ。葉月に言われたままじゃ、ムカつくからな。」
「はあ!何それ。アンタいつも一言余計!」
私たちは笑いながら外へ出た。
あれ、と。声が漏れる。私はあることに気づいたのだ。
誰かを忘れていることに。さらには、それが唯一の友人であることに。
でも、だ。舞香は気にしていないだろうから私も特に気にしなかった。今頃舞香は、
「何だかんだいい感じじゃん。あ!ゆうすけ、頑張ってね!」とか彼氏に言ってんだろう。
舞香も舞香で隅におけない奴なので忘れていたことも仕方なかったのかもしれない。あと私の中だけでも私と文月を囃し立てるのやめて。
「はぁ、最後までやる気出せっての。」
体育は案の定文月が一番乗りだった。
「文月くんすごかっ」
女子群の1人が文月にこれをかけようとした瞬間。
「あんた、最後の方スピード落としてたでしょ。あとちょっとで学校のベスト更新できたでしょ!」
と言いながらタオルを押し付けるように渡す。
「いいだろ、1番だったんだから。」
文月と私は、一緒に並んで教室へと戻った。
女子群からの不穏な視線に気づきもせずに。
それから何日か経った日の放課後。
女子群の一角の特に目立つ女の子、琴葉に聞かれた。前に私にくだらない質問をした女子でもある。
「前、葉月ちゃん。私に文月君のこと何とも思ってないみたいなこと言ってたよね?でも何なの、あの日の体育。明らかに私たちに見せつけてたよね。」
私は少し反対しようと思ったが彼女のマシンガントークは止まらない。
『私を含めたいろんな子が、文月君のこと好きなの知ってるよね。どうしてわたしたちの恋を応援してくれないの。』
頭がおかしいと思った。『私たち』だなんて。
文月は、1人しか好きにならないのに、みんなが文月を好きになったらいつか文月は多くの人を傷つける、と言うことをわかっていないのか。もしかして文月は恋愛シミュレーションの中のイケメン王子様みたいな扱いをされているのだろうか。つくづく文月が可哀想だ。
しかし、そんなことを言ってやれば女子群は喜ぶのか、答えは否だろう。だから私は。
『違うあれは文月と、
『この後に及んでまだ文月君との惚気話するの?葉月ちゃんも文月くんをねらってるならそういえばいいのに。コソコソ文月くんと関わって、無意味に頑張るわたしたちを嘲笑ってたんだ。最低。』
『ちが、、
琴葉は行ってしまった。
(また敵を作っちゃったな。ていうか最後まで話聞いてよ、もう。)
しかし、私の想像を超えることがいっぱい起こった。
たとえば、の範疇だけど。
無視されることは当たり前で、ほかにも体操服を隠されたり、靴を校舎裏に隠されたりした。でも一番嫌だったのは、制服ちょっと切られちゃったことだったなあ。買い直さなくちゃいけなかったし、気づくのが遅かったから、めちゃくちゃ恥ずかしかった。
まあ他のがゆるく感じたのは、文月とか舞香は話してくれるし、体操服は文月が貸してくれたし、靴は文月がすぐ見つけてくれたし、、、
いや。
(文月に迷惑かけすぎてるな。)
そう思い、少し学校を休むことを決めた。私のためじゃなくて文月のためにね。彼も人間だ、私といると厄介に巻き込まれて可哀想だしね。
そんな感じで数日学校を休んでいると、メッセージが一通。相手は文月からだった。
『ここ最近学校きてないけど大丈夫か』
ストレートすぎなんだよ、とか思いながら返信する。
『うん大丈夫だよー』
すぐ既読がつく。
『なんか悩みあるなら話せよ、嫌なことあるなら俺学校でも相談乗るから』
つくづく文月という男はムカつく。
あんたも意外と関係してるよ、と言いたかったけど私が学校を休んだ理由とはブレるのでやめた。
『ありがとー、明日は行くね』
と軽く返してその日は会話をやめた。
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