隣の王子様(否認)と甘い苦い恋をした、
かむとぅるーまん
第1話
「あなたはだあれ?」
小さい頃風邪をひくとぐるぐると回る思考の中で変な夢を見た。
その夢で『私』はどこまでも地平線の広がる野原にいる。
建物は、ない。人も、いなかった。それなのに寂しくも退屈でもない。それは何故か。
つい先程まで誰もいなかったこの平原に人間が現れたからだ。でもその人のことについてわかるのはすこしだけだ。
背が私よりもだいぶ高いから大人みたいだけど男か女かはわからない、きっと知り合いではないのだろう。いやそれすらも定かではない。でも、自然と暖かさに包まれていたことは今でも覚えている、何だか孤独な私を王子さまみたいな人が迎えにきてくれたような気がしていたから。
肩を叩かれる音で自分が惚けていたことに気づく。
「授業聞いてないと、また当てられるぞ」
私の肩を叩いて、小声で語りかける彼は、文月夕。私の同級生で今は隣の席。声は低くてザ・男子なのに、目は二重で丸く全体的に整った可愛い顔つきだ。
「またって、いつも私が惚けてるロマンチストみたいな感じで言わないで!」
私が話すと
「昨日もそのくだりやったろ。こっちがせっかく忠告してやってるのに。」
彼は特に表情は変えず板書しながら私と話す。
「はあ、何それ?あなたこそ」
と彼に反抗しようとした時、私の声は遮られる。
「おい、葉月。授業ちゃんと聞いてるのか?この問16の3番答えてみろ。」
もちろん授業を聞いてないから分からない。
(ヤバい、どうしよー!えっとあれがあれで、、)
「え?」
彼が袖を引っ張ってきたので彼の方を見ると、
彼がノートを指さしてた。彼は優しそうな笑顔で答えを教えてくれたのだ。
(ありがとー!いつもムカつくこと言うくせに優しいとこあんじゃん!)
「えーと、(x+1)(x+2)(x-3)(x-4)です」
ノートを少し遠めに見てるから辿々しい答弁になってるけど彼の答えは多分あってるから自信満々に答えてやる。
「あー、葉月それ4番だって」
「え、いや」
「もういい、文月」
「(a-b)(b-c)(c-a)」
「よし、正解。葉月、文月を見習えよ。」
「は、はい」
私はバカだ。問題がわからないことがではない。彼を信用したことがだ。少しでも彼に感謝した自分をぶん殴ってやりたい、と思いながら彼の方を見ると———
笑ってた。腹を抱えて。目に涙さえ浮かべてたかもしれない。こいつもろとも殴ってやりたい。
「はあ、ウザ!!」
(こんな奴を好きになる人いるわけないでしょ?!)
授業が終わり、昼休みに入ろうとすると、女子たちの群れが私の席目掛けてやってきた。否、私の席の近くであって目的は私ではない。女子たちの標的は文月の奴だ。
「文月君、さっきすごかったね!あの問題難しかったのに。」
「昨日も部活で大活躍だったんでしょ?スリーポイントを5本決めて!」
うん知ってた、知ってたさ。彼はモテる。彼を好きな子は五万といる。文武両道、そして才色兼備の男バージョンを具現化したみたいな感じだからと自分で勝手に納得する。
「まあ、結果だけ見たらね。おーい、ゆうすけ。食堂行こうぜ。」
彼は友人を誘って逃げるように食堂へ向かって行った。
途端に女子の群れ——女子群の矛先は私に向かった。でもその矛先は彼の時みたいに丸くない。レイピア、いやサーベルを彷彿とさせる鋭さだ。先端恐怖症涙目。
「いいよね、葉月さん。文月君の隣の席で。ほんとに月とスッポンて感じ。」
「さっきも、文月君に肩叩かれてたよ」
・・・あのー聞こえてますよ。もしかしてわざと聞かせてる?
「ねえ葉月さん。」
「な、何。」
彼女達の目線にはハイライトがなかった。
これはさっきよりも怖い。額に拳銃を向けられてる感覚。
「文月君のこと好き?」
額に向けられてる銃が水鉄砲に様変わりした。何だその質問。てっきりもっと、私自身を蔑むことを言ってくると思っていた。彼の話を聞くだけで私はムカついたからこう言ってやった。
「大丈夫だよ。わたし『あんなの』好きじゃないから。」
私はお弁当を持って友達と外で弁当を食べに行った。
「はあ、あんたねー。そんなこと言うとまた女子の敵増やすよ。」
そんな警告をしてくれるのは私の唯一の友人の舞香。
「だって、あいつわざと私に間違った答え教えてきたんだよ、しかもその後笑ってた!」
絶対許さない、と言うと舞香はニヤけながら、
「あんたぐらいだよ。彼のことよく思ってないの。彼かっこいいのにねー、なんたってかクラスの王子様って言われるくらいだもん。」
そう話す舞香を横目に見ながらここで、舞香はどうなの、なんて愚問はしない。
それは舞香には彼氏がいるからだ。
「まあかっこいいのは認めるけど、人は内面だよ?あんなの好きになることなんて絶対ない!王子様も全否定!」
「ふーんそう、でも仮にあんたがそういう感情になっても昔のことまだひきづってて、そういうトクベツな関係になれないってのは知ってるから安心しな、別に無理にくっつけたりもしないから。」
ニヤける舞香を怪訝と感謝の入り混じった顔で見る私は、あの時のことも含めて、うん、と小さく頷き改めて彼を嫌いなことと懐古の必要性のなさを再確認した。
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