第4話
帰り道。電車の線路を囲う錆びたフェンスの下を、ぼっさぼさに伸び放題の雑草が埋めつくしている。あかね色の西日が射す線路沿いの、狭い通学路には、夕方という時間帯のせいか人通りが少なかった。
いつもは一人で歩く道を、みち花は雪村と歩く。これも、三回目だ。
部活が終わってそのままの自然な流れで、二人は一緒に学校を出た。雪村の通う塾は、みち花の家があるマンションを過ぎた、駅前の方にある。
同じ道を行くのだから、別に一緒でもおかしくなんかない、よね?
みち花はちょっと、不安になってきてしまった。
友達なのだから、男女がどうとか難しく考えずに、仲良くしてればいいとは思うんだけど。さっきみたいに、他の人たちから変な目で見られると、心がもやもやして、やっぱり気になってくる。
みち花の歩きが少し遅くなった。雪村との間隔が、じわじわとずれ始める。すると、雪村は当たり前のように、みち花に合わせて歩くペースを落とした。二人はまた、隣に並ぶ。
のんびりと歩く二人の横を、自転車に乗ったワイシャツ姿のおじさんが、颯爽と追い抜いていく。
「もう、疲れた?早すぎじゃない」
雪村が茶化すように、みち花のことをのぞきこむ。大きな薄茶色の瞳に、あの光は見当たらない。今はただ、からかっているだけだ。
心のもやもやに、答えなんて簡単には見つからない。とりあえず、みち花は相手の話に乗ってみた。
「……ん、疲れたかも。運動部の人とは、やっぱり体力が全然違うよ。サッカー部だよね」
みち花が言った。するとなぜか、雪村の凜々しい眉が悲しげに下がる。
「本気で言ってる?サッカー部じゃないし」
「え、」
みち花は、ぱちぱちとまばたきをした。ずっと、サッカー部だと思っていた。かん違いしていたみたいだ。
明らかに動揺しているみち花の様子に、雪村がわざとらしく、ため息をつく。
「はあー。傷つく。山岸って、俺に興味薄いよな。いや、知ってた。知ってはいたけどさ」
「そ、そんなことない。んー、ソフトテニス」
「違う。俺が教室で、ラケット持ってきてるとこ見た?」
「見てない。じゃあ、バドミントンもなさそう。頭を坊主にしてないから、野球も違う。卓球、陸上、剣道――は、イメージにないかなあ。運動部なのは合ってるでしょ。バレー……あ、バスケとか!」
「運動部を片っ端から挙げてったら、そりゃあ、いつかは当たるだろ」
雪村があきれて言う。
錆びたフェンス越しを、上り電車が走っていく。西日に照らされた、長い銀色の車体が、ガタンガタンと大きな音を立てる。そのあまりのうるささに、会話がかき消されてしまう。二人はしばらく口を閉じた。列車風を吹かせながら、駅に向かって電車が猪突猛進に去る。
みち花は風に乱された、耳あたりにかかる髪を、手ぐしで軽くはらった。みち花の真っ直ぐな黒髪がさらさらと流れる。その仕草を、雪村がとろんとした目で見ている。
「えっとそれで、バスケ部なの?」
みち花は話を再開した。
「そ。シューティングガードってポジション。市内じゃ、結構強いチームだったりする」
「そうなんだ。バスケ部、覚えた」
シューティングガードってなんだろう。
みち花の知らない単語だ。でも、そのまま聞き流した。スポーツとは、あまりご縁のない日々を過ごしている。みち花は体育の成績で、3が取れれば大喜びするレベルの、ぱっとしない運動神経の持ち主だ。
バスケットボールのような球技なんて、ボールを真っ直ぐ投げることでさえ、まるで自信がなかった。
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