第2話

 雪村が手芸部までついてくるのは、今日で三回目だ。みち花がアクセサリー作りに集中している間、会話が途切れがちになる。そうなると、雪村はすることがなくて、つまらないはずなのに。

 

 雪村は邪魔したり、他の手芸部員と話したりもせずに、ただ、とろんとした眠たげな瞳で、みち花の作業を見ているのだった。


 それって、暇つぶしになっているの?


 みち花はいつも、疑問に思う。

 でも、雪村は今日も当たり前のように、一緒に被服室に来た。ということは、みち花が心配する必要はないのだろう。本人がつまらないと感じたら、きっとすぐに来なくなるだろうし。


 みち花はクリーム色のお花を作り、さらに半透明の白いビーズでお花を作る。緑色、クリーム色、白の順番で、お花を作り足していく。すると、一本のテグスに九個のお花の連なりができた。そして、最初と最後のお花のビーズをテグスでつなげて、輪になるようにしたら、固結びで留める。

 三色のお花をつなげた、繊細なビーズの指輪が完成した。


 早速、みち花はわくわくしながら、出来たての指輪をはめてみる。しかし、


 「あれ?」


 みち花が呟く。右手の人差し指にはめた指輪は、ゆるくて、軽く指を動かしただけで、すぽっと抜けそうになる。サイズを少し、大きめに作ってしまったみたいだ。


 「どうした、」


 雪村が、静かな声で言う。みち花は雪村を見た。正確には、雪村の指を。

 

 男子の指だったら、サイズが合うかもしれない。


 「ちょっと、手、出してみて」


 「何で」


 「いいから」


 雪村が素直に、こちらへ左手を差し出す。だ円形の整った爪は、薄いピンク色をしていて何だか可愛い。それに、意外と大きな手をしている。

 

 手の大きな人は身長が伸びるって噂は、本当なのかな。まあ、今でも雪村くんは、私より背が高いけど。


 そんなことを思いながら、みち花は差し出されたその手を、迷わずわしづかみにした。自分の指につけていた指輪を抜いて、雪村の人差し指にはめる。お花の指輪は、雪村のすんなりとした長い指に、ぴったりと収まった。サイズも丁度良い。


 「わあ、いい感じじゃない?」


 みち花の口元に、喜びが広がる。

 緑色、クリーム色、そして白いビーズのお花は男子がつけても、しっくりとくる色合いだと、みち花には思えた。もしかしたら雪村が、普通より顔立ちの整った男子のせい、かもしれない。


 「どう思う?」


 「……」


 みち花は尋ねた。でも、雪村は黙ったままだ。無言で、動きを止めている。不思議に思ったみち花は、ようやく、はっとして気がついた。


 みち花の手が、遠慮なく雪村の手をつかんでいる。二人で向き合って、手をつないでいる、みたいな状況。


 あ、まずいかも。


 いくら友達とはいえ、幼稚園児じゃないのだから。仲良くなったばかりの男子相手に、なれなれしくしすぎだ。


 「ご、ごめん」


 みち花は雪村の手を離そうとした。でも、今度は反対に、雪村の方がみち花の手をしっかりと握る。簡単にはほどけないくらい、痛くはなくても固く、離れかけた手をつかみ返される。


 


 



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