第4話

「で、もう半分の角材は俺が落としたんだな。間抜けにも見つけられなかったみたいだが」

 聖沢はそうよ、とまたも笑っていた。

「まあ当時は日も暮れていたから暗かっただろうし、見つけられなくても当然よ」

「それでその血の付いてない半分は今どうなってるんだ?」

「そりゃ、まだ林にあるでしょうね」

 聖沢は平然と述べた。

「じゃあ凶器は見つかったも同然じゃないか」

 不安が再燃してきた。指紋はついてないはずだが、果たして大丈夫だろうか。

「安心して、もう残ってないと思うわ」

「ほとんど?」

 どういうことだ。血が付いていた半分と同様、誰かが持ち去ったのなら残っていないはずだ。それか誰も持ち去っていないのなら、残っているだろう。

 そのどちらかのはずだが、聖沢は「ほとんど」と言った。その意味とは。

「今度はこれを見て」

 聖沢は再びスマートフォンの画面を見せてきた。

 今度はネットニュースの記事だった。

「これは第一発見者のおじいさんへの取材が書き起こしてあるわ」

「ああ、それなら俺も読んだよ」

 彼女が見せた記事は俺が家を出る前に読んでいたものと同じだった。

「お腹を空かせて死体に食いつきそうな犬を止めるのが大変だった、と書いてあるわ」

「そうだな。それが角材と何の関係が?」

 まだ分からないの、とすっとぼけたような顔。

「犬のゴエモンの気を引くため、おじいさんは何をしたと思う?」

「腹が減ってたからおやつでもあげたんだろ」

「ゴエモンは散歩が終わってから朝ご飯なのよ。ご飯前におやつなんてダメよ」

 聖沢は大真面目にそう言った。

 ダメなのだろうか。俺は犬を飼ったことがないので分からない。

「じゃあおもちゃで気を逸らしたとか?」

「惜しい!」

 楽しそうだ。クイズでもやっている気分になる。

「公園とか空き地に寄るわけでもないみたいだし、この時おもちゃは持ってなかったと思うわ。でも代わりになるものがあったとしたら?」

 ここまで来たら答えは明白だ。

「俺が落とした角材か」

「ピンポーン」

 見事正解したようだ。

「おじいさんは角材を見つけおもちゃ代わりにしてゴエモンに遊ばせたのよ。相当お腹を空かせてたみたいだから喜んで噛みついたんじゃないかしら? 落ちてたのが血の付いてる方だったらそれこそ食べてたかもね。

 角材はゴエモンのストレス発散に使われ、バラバラになったのよ。凶器とは思えないほど小さくね」

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