第2話

『林で男性の遺体発見』

 犯行の翌日、そんな見出しのネットニュースが飛び込んできた。

 発見されたのは朝の八時頃だという。林の近くで犬を散歩させてたじいさんが発見したそうだ。

 いくつか記事を見たが、共通しているのは頭部から血を流していること、他殺の疑いがあること、そして凶器はまだ見つかっていないことだった。

 ひと安心したがまだ油断は出来ない。どこからひょっこり血のこびりついた角材が出てくるとも限らないからだ。

 ふと新しい記事を見ると第一発見者のじいさんへの取材の書き起こしがあった。

 毎朝の散歩ルートでゴエモン(犬の名前)が珍しく歩道を外れ林に入りたがったので行くと死体があった。

 いつも散歩後にゴエモンに朝飯をやるため、当時ゴエモンは腹が減っており死体に噛み付く勢いだったという。警察が来るまで死体からゴエモンの気を紛らわすのが大変だったということが書かれてあった。

 林はじいさんの散歩ルートだけではなく、小学生の通学路でもあるという。

 人気がないと踏んでいたが、時間帯を間違えば目撃されていたわけだ。背中を冷や汗が伝う。

 実際、凶器が見つかったとしても指紋は残していない。大丈夫さ。俺は自分に言い聞かせた。

 今日は仕事を休みにしてある。アリバイ的にまずいとも思ったが、人を殺した翌日に出社していつも通りの仕事が出来るとも思えなかった。それにあんな職場どうせ俺がいなくても誰も困らない。絵梨にとって俺がそれだけちっぽけな存在だったように。

 だからこの休みは褒美だ。心ゆくまで寝てやろう。そう思い横になるも心は全く休まらなかった。

 もし今頃凶器が発見されてたら? 警察が公表を控えてるかもしれない。本当に指紋は付いていなかっただろうな?

 犯行当時と今では状況が違う。まず時間帯。今は午後二時を過ぎたところだ。当時は夕暮れであり、角材がないことに気づいた時にはすでに辺りは暗かった。見落としていても不思議じゃない。

 こうしちゃいられない。居ても立っても居られず、俺は着替えて外へ飛び出した。


 *


 林の周りにはマスコミと数人の野次馬がいた。

 見たところ地域住民の他に、若い女性が何人かいるようだ。遠藤和樹はSNSで配信もしていたため、多少なりともファンがいたのだろう。本当に多少だけど。

 女性たちは皆花束を持っており時折、嗚咽混じりの声が聞こえてくる。

 あんな男のために泣く人がいるのか。なんだか敗北した気がした。果たして俺が死んだ時泣いてくれる女性はいるのだろうか。

 そんなことよりも凶器だ。だが思ったよりも野次馬が少ない上、マスコミもいる。あんな所をうろうろする気にはなれない。

 諦めよう。そう思った時だった。

「すみません」

 背後から声をかけられた。

 一瞬びくりとし、振り返ると若い女性が立っていた。

「……なんでしょうか?」

「もしかしてあなたも、遠藤和樹のファン?」

「いや、俺はそういうのじゃ……。なんというかその……あれ、野次馬だよ」

 たどたどしい俺の言い方に女はふーん、と訝しむ。

「で、何?」

「いや、あんまり怪しいから犯人かと思っちゃって」

 心臓が止まるかと思った。バレた! そう思ったがどうやら冗談のようだ。女は笑っている。

「ハハ、そんな訳ないよ。君こそ、遠藤和樹のファン?」

「まさか、全然知らないわ。あれを探してたのよ」

「何を?」

「凶器」

 そう言った彼女の瞳は鋭かった。こちらを挑発しているような気さえする。

「ああ、そういえば見つかってないんだっけ?」

「ええ、警察はね。でも私はもう見つけたわよ」

「本当か⁉︎」

 思わず両手で彼女の肩を掴んでいた。しまった、と思い手を離す。

「どこだ、あの角材はどこにあったんだ?」

 瞬間、彼女がにやりと微笑む。

「へえ、角材なんだ」

「あ、」

 勝利を確信した笑顔。

「やっぱりあなた犯人でしょ」

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