夕暮れの殺人
カフェオレ
第1話
秋の日の夕暮れ。白い息が漏れるのは寒さだけではない。興奮のあまり息が荒くなっているのだ。
脳天から血を流し、枯れ草の上に仰向けに倒れている男。その光景を目の当たりにし、俺はほくそ笑んだ。
当然の報い。
俺、
男の名は
昔から女からもてはやされ、顔がいいだけで思い上がったようだ。「いつかビッグになる」が口癖でアルバイトなどしておらず大した稼ぎもない、所謂ヒモだ。その上浮気癖が酷く、借金もあるというクズだ。
こんなやつのために俺が想いを寄せていた
やつの借金も、酒も、女と遊ぶ金も全て絵梨が工面していた。どうしてやつにそこまで尽くすのか。俺は怒りで涙が止まらなかった。
なのに絵梨が死ぬと遠藤は、平気で別の女の家に転がり込んだ。なんて薄情なやつだ。俺の中に確かな殺意が芽生えた。
この男を殺すべく俺は全てを捨てる覚悟で殺害計画を練り、実行に移したのだ。それも背後から襲うなどという堅実なやり方ではなく、正々堂々、真正面からだ。
つくづく馬鹿な男だ。儲かる話があるなどと適当を言い人気のない林に誘い出すと、のこのこやって来た。俺は不意を突くことはせず、絵梨の復讐であることを宣言して、この角材をやつの脳天に叩き込んだのだ。あの感触は一生忘れない。今までにない達成感だった。
あとはこの角材を燃やして証拠を隠滅するだけだ。
そう思い俺は右手を持ち上げる。そこで俺は戦慄した。
やつの脳味噌を一撃で粉砕し、地獄へと葬った凶器。血がこびりついていた角材。確かに俺の右手に握られていた殺人の動かぬ証拠。それが無いではないか!
落としたか。いやまさか、ついさっきまで確かに持っていたじゃないか! それともやつの頭に叩き込んだ弾みでどこかに飛んで行ったのか? だとしたらとんでもないことだ。
元より人生を投げ打つ覚悟だった。だったのだが、本当にこんな男のために自分の人生を台無しにしていいとも思えず、捜査が自分に及ばないよう殺人を計画したのだ。
俺は狼狽した。バレる。殺人で捕まるとなると実家の両親に迷惑がかかる。それに遠藤を殺すまでは絵梨が人生の全てのように考えていたが実際は結婚し妻子を持ちたいという気持ちもあるし、挑戦したい仕事もある。二十代も半ばに入り、まだまだ人生に未練があるのだ。
俺は死に物狂いでしばらく辺りを探してみたがすでに日は暮れており視界が悪く、角材は見つからなかった。人気がないとはいえ、いつどこで誰が見ているか分からないものだ。仕方がないので遠藤が息をしていないのを確認し、その場を後にした。
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