第3章 水の都、クシュリナ聖公国

第1話 寄り道

 スライムバスで移動するルル。

 その体は緊張でカチコチに固まっていた。


 それもそのはずでルルの隣にはなぜか『火の狂戦士』クリフォード・カロライナが座っていたのだ。



「あぅあぅ……」

「どうかしたのか?」

「な、なんでもないです……」



 足を組み鋭い視線だけルルの方へ向けてくる。

 目だけで人を射殺せそうな迫力にルルは怯え切ってしまっていた。


 どうしてこんな恐ろしい男と二人旅になってしまったのかというと、すべてはマリウスのせいだった。



――マリウスさん、どうしてこの人を護衛にしたの!?



 恨み言を言いたくもなるが最後の別れもろくにさせてもらえずに、クリフォードに襟元を捕まれて町の外へ連れ出されていた。


 そして、「馬車はあるのか?」と聞かれスライムバスを作り出すと一緒に乗ることになったのだ。


 一応クシュリナ聖公国の詳しい位置は聞いていたためにスライムバスを跳ねさせておけばいつかはたどり着く。


 いつもならかなり高度を出して跳ねているスライムバスに恐怖に怯えるのだが、今はそれ以上に隣に恐怖の存在がいるために体を縮こませてずっとうつむいていた。

 むしろ外を見ている方がその恐怖が和らぐほどである。


 確かに戦力として考えるならこの人以上の護衛はいないだろう。

 仮にも『色環の賢者』。しかも同じ『色環の賢者』のマリウスを圧倒するほどの能力も持っている。


 問題は護衛する代わりに「殺させてくれ」と言ってきそうなことだろう。



「おいっ」



――わ、私、生きて聖公国まで行けるの?



「おいっ、聞いてるのか?」

「ふぁいっ?」



 ぼんやり考え事をしていたせいでクリフォードが声をかけてきていたことに全く気づいていなかった。



「な、なんでしょうか?」

「そろそろ泊まるところを考えた方が良いぞ? それとも適当なところに野宿するのか?」

「あっ……。そ、そうですね」



 言われるまで全く気づかなかった。



「あ、ありがとうございます。近くに村があったらよることにしましょう」

「この近くなら少し道を逸れるが少し東に移動しろ。そこに小さい村があった」



 もしかしてそのことを伝えようとしてくれていたのだろうか?



「ありがとうございます。早速向かってみます」

「あぁ、そこの酒がまたうまいんだ」

「もしかして、お酒目的でした?」

「当たり前だろ? あとは女だな」

「わ、私に手を――」

「ガキは黙ってろ」

「はい……」



 ルルとしてはすでに大人であることを主張したくも迫力に負けて素直に頷いてしまった。







 小さな村へとやってくるとルルは投げ捨てるように宿屋へと放り込まれる。



「おう、婆さん。俺様が一人とチビガキが一匹だ」

「誰が婆さんだ! ちっ、二人分で銀貨二枚だよ」

「ほらっ、チビ。支払いはお前だろ?」

「こんな子供に金を出させるのかい!」

「こんななりでも今の俺の雇い主だからな」

「そうかい……。こんな口悪いやつを雇わないと行けないなんて可哀想だね」

「誰が口悪い奴だ!」

「お前以外にいるのかい?」

「ちっ、俺は出てくる。お前は休んでおけ」



 それを言うとクリフォードは宿を出て行った。



「はぁ……、相変わらず自分勝手な奴だね」

「あの……、あの人は良くここに来られるのですか?」

「年に数回は来てるね。よほどここの酒場が気に入ってるのか、それともなにか別の目的があるのか……」

「ここにはお酒と女の人を楽しみに来てるって言ってましたね」

「なら愛人でもいるのかも知れないね」

「愛人……なのかな?」



 この村に寄りたいって意思のようなものを感じたので特別な相手だと思ったルルだったが、拍子抜けしてしまう。



「それよりお嬢ちゃん、部屋に案内するから付いておいで」

「はい、お願いします」



 少しだけ気になるもののそれ以上はクリフォードのほうから口にして貰わないと何もわからないことである。

 仕方ないのでルルは明日の出発に備えてさっさと寝ることにする。







 翌朝になるとルルはいつもの服に着替える。

 そして、クリフォードの部屋をノックすると辛うじて下半身だけズボンのはいている彼がすごく酒の匂いを漂わせながら出てくる。



「なんだ、もう起きてきたのか?」

「っ!?!?」



 ルルは顔を真っ赤にして慌てて明日の方へ振り向く。



「この程度で照れるなんてまだまだ子供だな」



 大声で笑いながらクリフォードは裸の上から真っ赤なローブを羽織っていた。



「もうこの町での用事はいいのですか?」

「別に用事なんて無い。それよりも出発するぞ」

「は、はいっ!!」」



 クリフォードに言われるがままルルはスライムバスを用意する。

 すると、彼はスライムバスに何やら樽をいくつも積み込み始めていた。



「あんまり重くなると速度が遅くなりますけど……」

「必要なものだ。いずれわかる」



 結局ルルはクリフォードに言われるがまま詰め込みが終わるのを待ち、再びクシュリナ聖公国へ向けて出発するのだった。




――――――――――――――――――――――――――――――――

3章の開幕です。

次回更新予定は火曜12時ですが、月曜の都合次第で一週間後の土曜になるかもしれません。

ご了承下さい

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