第16話 旅立ち

 傷を治し終えた後、マリウスから状況を説明される。

 原因は元々マリウスと『白』の座を争っていた人物であること、クリフォードはもう敵対の意思はないこと、あとは相手もルルの魔法を受けてその体を崩してしまった話を聞く。



「そうなんですね……。治癒魔法でもその人は助けられなかったのですね」

「君が気落ちする必要はないよ。あれは悪魔に心を売ってしまったのが悪いのだから」

「人を魔族に変えてしまうなんてそんなものがあるのですね」

「禁忌とされてる術の中にはね……」



――すごく瘴気も出てたしこれが神様の言ってた世界の歪みなんだろうな。



「元々はすごく真面目な奴だったんだけどな」

「その人も誰かに唆された、とかありますか?」

「むしろ私はそれを疑ってるよ。でもそうなると親玉がどこかにいることになるね」

「うーん、これ以上はわからないよね?」

「それにしてもルルはよくあの男にピンポイントで治癒魔法をかけられたね」

「あの人のところ、すごく瘴気が強かったんですよ。だから念のために浄化したんです」

「なるほど。つまりルルが近くにいれば魔族がいるかどうかわかるってことだね。僕が狙われたところから相手の狙いは『色環の賢者』であることが高いわけだし」

「それじゃあ、他の賢者さんのところも様子見しに行ったほうが良さそうなんですね」

「クシュリナ聖公国かライベルド帝国がわかりやすいだろうね。特定の国に肩入れしていない『緑』は居場所を特定するのに時間がかかるだろうし」

「どっちの方がおすすめですか?」

「だんぜんクシュリナ聖公国だよ。帝国は少々過激でね、今のルルには大変かもしれないね」

「わかりました。では、次の目的地はクシュリナ聖公国にします」

「色環の賢者の会議が近くにあれば良かったんだけどね。数年に一回、気分でしか行われないから」

「そんなものがあるのですね」

「いずれルルも呼ばれると思うよ。まぁ、全員集まるのが稀だけどね」

「あ、あはははっ……」



 この辺りも自由人と言われるが所以なのだろう。



「あと、クシュリナへ向かうならいくつか注意する点があるな」

「えっと、たしか元砂漠だったところにできた街だから砂漠越えしないと行けないんですよね?」

「よく覚えてるね。それももちろんある。ただ、何よりも問題なのはユリス・クリュリナーデ本人だよ」

「……えっ? で、でも『色環の賢者』の一人でこれから会いに行く、聖女様って呼ばれてる人ですよね?」

「あぁ、表向けの認識はそれで合ってるな。問題は彼女自身の性格だよ。ルルは多分見つかると危険だからなるべく姿を隠して行く方がいいね」

「それはずっとフードを被ってた方がいいってことですか?」

「そうだね。ただその白いモコモコのローブは『無色の魔女』の格好として伝えられてるから前みたいにその上から黒ローブを着た方がいいね」

「わかりました。その格好で行くようにしますね」

「あとは道中の危険……か。だれか護衛の人に心当たりはあるかい?」

「いえ……、まだ」

「わかったよ。それは僕の知り合いに声をかけよう。性格に難はあるけど、確実に安全に君をクシュリナまで連れて行ってくれるはずだよ」

「それは助かります」

「では、僕は彼に声をかけてくるよ。すぐに旅立つんだよね?」

「はい、下手な騒ぎに巻き込まれる前に……。明日の朝にでも出発します」

「わかったよ。なら明日の朝、北門で集まろう」

「魔女さん、もう行ってしまうのですね……。寂しくなります」

「大丈夫ですよ、ミーシャさん。また必ず会いにきますから」

「約束ですからね」



 最後にミーシャに抱きつかれる。

 そして、悲しそうに手を振って見送られた。







「えっ? ルルさん、もう行かれてしまうのですか?」



 イーロス商会へ戻ってくるとリッテに驚かれてしまう。



「うん、明日の朝出発だよ」

「そ、そんな……。そ、掃除用ポーションも順調に売れてるんですよ? こ、ここで生活してもらっても……」

「色々と見て回らないといけない場所があるからね。それに私もまだまだ世界を見てみたいし。あっ、しばらくは掃除用ポーションも販売できるようにしておかないとね」



 ルルは少し考えた上で店にある井戸へとやってきた。



「あの、ルルさん? うちの井戸がどうかしましたか?」

「もちろんこうするんだよ。えいっ!」



 ルルが井戸に治癒魔法を使う。



「多分これで大丈夫。汲んでみて」

「えっ? あっ、はい」



 リッテが実際に水を掬ってみせる。

 何の変哲もないただの水。


 しかし、それを見たリッテはもしかしてと思って側に置かれていた小汚い樽に掛けてみせる。

 すると樽はみるみるうちに汚れが落ちていき、元通りの綺麗な樽へと姿を変えていた。



「汚れ落としのポーションが湧き出る井戸だよ! もちろん飲むのにも使える万能タイプ」

「あ、ありがとうございます。これでしばらくは販売ができますね」

「いつまで効果が持つかわからないからまた来たときにでも様子を見るね」

「ま、また来てくれるのですか?」

「もちろんだよ!」

「あ、ありがとうございます」



 リッテがルルに抱きついてくる。

 その背中をポンポンとたたきながらルルは彼女が離してくれるまでジッとそのままにしているのだった。





「そうかい、もういってしまうんだね……」



 夜、一緒に食事をしているとケイトとマーサも悲しそうにしてくれる。



「はい、ちょっと今回騒ぎになりすぎましたから」

「いつでも来てくれて良いですよ。歓迎しますから」

「ありがとうございます」

「おっと、こうしてはいられないな。ルルさん出発のために準備をしなくては」

「あらあら、ダメでしょ。目立たないように出発するのに目立つようにさせてしまっては」

「それもそうだったな。なら旅の一式を準備しよう。何が欲しいかな?」

「い、いいのですか?」

「もちろんだ。私たちがしてもらったことを考えたらそれでも安いくらいだよ」

「それでしたら薬瓶が欲しいです」



 もうほとんど在庫を切らしているせいで今あるポーションはルルの水筒に入ってる分だけだった。



「そんなものでいいのかい? あぁ、あと必要そうな物はこっちで勝手に準備しておくよ」

「ありがとうございます」





 翌朝、ルルはやたら巨大なリュックを渡される。



「えっと、これは?」

「もちろん旅に必要な物だよ?」



 持ち上げようとするが、全く上がらない。

 引きずることすらも難しい。



「…………」

「……ちょっと入れすぎたかな?」

「多すぎますよ!? 持てないですからね?」

「ぷー♪」



 杖にしていたスライム君が自身にリュックを引っ掛けるとそれは簡単に持ち上がった。

 というよりはスライム君が持ち上げてくれているようだった。



「ありがとう、スライム君」

「ぷー♪」

「それじゃあ、元気でね」

「はい、行ってきます」

「いってらっしゃい」



 ルルはリッテたち一家に見送られてルルは北門へと向かって行く。

 するとそこで待っていたのはマリウスとクリフォードだった――。



――――――――――――――――――――――――――――――――

ここで第2章が終了となります。


第3章からは部隊が変わりまして、『クシュリナ聖公国』が舞台となります。

簡易あらすじ

砂漠に囲まれた水の都。

しかし、ルルの周りには『赤』のクリフォードと『青』のユリスという問題賢者たちが取り囲んでいた。はたしてルルは無事に町で過ごすことができるのだろうか?


そろそろ更新のペースを毎日から数日に一回に落とさせてもらおうと思っております。

ずっと楽しみに待っていただけている方は申し訳ありません。


第3章第1話は7月1日12時に更新させていただきます。

どうぞよろしくお願いします。

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