第2話 水の都
「暑い……」
スライムバスでクシュリナ聖公国へ向かっていたルルだったが、途中に横断しないと行けない砂漠はあまりにも暑く、ぐったりとしながら手で扇いでいた。
「なんだ、この程度で情けないな」
「そういうクリフォードさんも汗だくですよ……」
「俺は元々汗かきだ」
「尋常じゃない程出てますけど……」
「この程度、誤差の範囲だろ。それよりもお前は服装をどうにかしろ! 見ていてこっちが暑くなる」
「やっぱり暑いんじゃないですか……」
でも確かに自分の格好は暑苦しいといわれると納得せざるを得なかった。
モコモコのガウンに黒ローブも着ている。
今は夜の砂漠なのかと言いたくなるようなほど、防寒対策ばっちりの格好であった。
でも着替えようにもスライムバスの中ではどうやってもクリフォードに見られてしまう。
そもそも跳ねながら着替えられる自信もない。
「せ、せめてどこかで止まらないと無理ですよぉ……」
「ちっ、上を脱ぐだけで済むだろ?」
「クリフォードさんみたいに何も着ないなんてできないです!」
「別にお前が全裸でも俺は気にしないぞ?」
「私が気にするんですよ……」
「ちっ、こうやってやりとりするだけでも暑くなる」
「誰のせいですか!?」
「お前だろ?」
「うっ……、そうでした」
ルルがクシュリナ聖公国へ行こうとしなければこんな暑い思いもしなくてよかったのだ。
そういう意味ではルルが原因と言えなくもなかった。
「ほらっ、これで我慢しろ!」
「きゃっ、な、何を?」
突然クリフォードが何かを掛けてくる。
それは前の村で大量に買い込んでいた樽に入っていた水であった。
「少しはマシになるだろ?」
「うぅぅ、でもボトボトです。何も言わずにいきなりかけないでくださいよ……」
「どうせすぐに乾く。とりあえず干からびる前に水分はとっておけよ?」
「わかりましたぁ……」
ルルは水筒から一口水を飲む。
それだけでなんだか生き返るような気がした。
◇
それから数日間の地獄の日々を終え、ルルたちの目の前についに聖公国の姿が現れたのだった。
水の都というだけあって、歩道の隣には水路があり、町の至る所に噴水が設置されている。
さらに建物は白をベースにしており、とても美しい町並みだった。
「見てください、クリフォードさん! すごく綺麗な町ですよ!」
道中でガウンを脱ぎ、薄手の黒ローブ一枚の姿になったルルは窓の外に広がる涼しげな光景に思わず感嘆の声を上げる。
「そんなの見たらわかる。それよりもお前、その格好のままで良いのか?」
「……?? どういうことでしょうか?」
「まぁ俺がとやかく言うことでもないな。俺の依頼はここまでだからな」
「クリフォードさんはこれからどうされるのですか?」
「ユリスに喧嘩を売りに行ってから、後のことは考えてないな」
「あまり喧嘩とかされない方がいいですよ……」
「魔法の力を上げるにはこれが一番だからな。俺の相手をできるやつはもう『色環の賢者』にしかいないが」
「それでも相手のことも考えてあげてください!」
「むっ。それもそうか。よし、それなら一緒に行くぞ!」
「な、なんでそうなるのですか!?」
「とりあえずこのままあの建物に突っ込め!」
「ま、町に入るにはその……、門兵の人に話をしてから――」
「そんな煩わしいのは俺たちには必要ない!」
「わ、私には必要ですぅ……」
なぜか門をスルーして、スライムバスはそのままクシュリナ聖公国で一番大きな教会へと向かうこととなってしまった。
◇◆◇
クシュリナ聖公国の教会の一室。
執務をしていたユリスの下に慌てた様子の兵がやってくる。
「ユリス様、ご報告があります!」
「どうしましたか? なにかトラブルでも?」
「今、門を通らずに突如として空より怪しげな物体が現れました。四角い箱状のモノで中には人が乗っておりますが、どのように対処させていただきましょう?」
「そこに乗っているのは一体どこの賊かしら?」
「一人は『赤』のクリフォードです!」
「ちっ、あの戦闘狂が!」
ユリスの顔が歪む。
しかし、それも一瞬のことですぐに元の笑顔へと戻っていた。
「一人、ということは別の人物も一緒にいるのかしら?」
「あっ、はい。もう一人は誰かわかりませんが小柄な少女が乗っておりました」
「なるほど。それはいけませんね。少女はしっかり保護しないと」
ユリスは唇を舌で舐めていた。
「保護……ですか?」
「えぇ、とにかく私は『赤』の被害がでないように中庭へ行きます。被害が出ないように誰も近寄らせないようにしてください!」
「はっ、かしこまりました!」
兵が出て行くとユリスはようやく表情を崩す。
「『赤』、一体どういうつもりなの? わざわざ私に貢ぎ物かしら?」
あの『赤』が少女を連れている理由がまるで想像が付かない。
弟子をとるようなタイプでもなければ、誰かと行動を共にするようなタイプでもない。
考えられることは一つだけ。
「全力でやり合うための捧げ物、といったところかしらね。あのただ暴れるだけしか能のなかった男がどういった風の吹き回しなのかしらね。貰える物は貰っておくけどね」
ユリスの頭の中はすでに一緒に来た少女のことで一杯だった――。
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