第32話 世界線
「行ってきます」
飛逹は平気そうな顔をしながらそう言って玄関を出た。
「…まぁ、来ないよね」
薫科哉の姿を暫く探していたが、諦めた。…まぁ会ってもどのような反応をするのが正しいのか見当がつかない為そちらの方が良いのだが。
「あ、飛逹くーん!!」
「あ、冬那」
冬那は飛逹に全速力で走り、スピードを緩めることなくそのまま衝突した。身構えていなければ前方にぶっ飛んでいたであろう。
「全く、なんで先に言っちゃうのかなぁー!」
「え?薫科哉と一緒に行くって…」
「は?薫科哉って…誰?」
「何言ってんの?」
「そっちこそ何言ってんの?」
冬那は眉を顰めた。
「最近働き過ぎて幻想でも見てるんじゃない?」
「え?薫科哉だよ??なんで?」
「だから誰?変なのー。過労死とかやめてね」
何で薫科哉のこと覚えてないんだよ。
けれど、薫科哉は存在していないのかもしれない。全て夢だったのかもしれない。クラスの名簿に薫科哉の名前が載っていないのだ。
「マジか…」
奏多は額に手を置いた。学校での不可解なことを話していたのだ。
「マジで言ってる?」
「うん」
奏多はゆっくりと額に置いていた手を戻した。
「…では一体何だ…?」
「誰かが薫科哉の名簿を意図的に消した…とか?」
奏多は首を振った。
「ならば冬那ちゃんが忘れている訳はなんだ?」
「確かに…」
飛逹は押し黙ってしまった。
「人間一人をそのまま消すなんてこと、出来るのか…?記憶を消すことが、できるのか?」
出来ないと思う。少なくとも、今世では。
「政府や宗教絡みか…?いや、流石に記憶は消せない…となると…何だ…?」
魔術でしかそんなことは不可能であろう。もしこの時代に魔術が存在しているのであれば…いや、無いか。それならば俺が気づいている筈だ。
「人外の成すことだろ…」
人外…。
言われて初めて、前世と今世の関係性について考えた。
そもそも、前世と今世は同じなのか?生まれ変わっただけなのか?ドイタニア帝国は?
俺はこれまでドイタニア帝国は侵食なので無くなったのかと思っていた。俺が死ぬまで無かったから。…もし誰かが俺が死ぬのを待っていたのだとしたら?ドイタニア帝国を死んだ後に魔術で消したのだとしたら?しかしそんなことができる奴だなんて一人も…!…いる。俺の最後の敵であった、マイヤフ・エビラフィー。あいつなら…できる。しかしアイツは封印して…!
いや、封印が解かれたら??俺が死んだ後に封印が解かれたら俺が悟る余地は無い。しかしドイタニア帝国を潰す意味が無い!参考資料や歴史書まで潰す意味は??
それとも何か地理的要因があるのか?
飛逹は世界地図を棚から取り出した。
地理的要因…。アイツが生まれたのはロシアだ。もし、ロシアが領土を広げたいのであればドイタニア帝国を潰すことは意思に反する。だとしたら国は関係無く、アイツ個人の行動。なんだ?ドイタニア帝国を潰したい理由。
「取り敢えず明日、薫科哉君の家に行ってみるよ…ったく…異世界みたいだな」
異世界…。もし…俺が生まれ変わったのではなく転生していたら?そして、もしここがその世界と違うければ?そして、もし世界が二つしかなければ?
いや、もし生まれ変わっていて、そして今の世界が異世界だとしたら?
そうか、世界が違うこともあるかもしれないんだよ、魔術があるくらいなんだから。
「準備しないと…」
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