第31話 愛

 恋愛感情とは何なのだろうか、と思った。飛逹と偽であるが、恋人になった時、そう思った。

 愛とは違う、つまり、家族に抱く感情とは全くの別物。

 恐らく、結婚をすると、概念ではあるが家族になる為、家族愛たるものにその恋愛感情が変化されるのであろう。しかし、それまでの恋愛感情、とは何か。恐らく、片思い、両思い、両片思い、もしくは恋人関係の時に抱くもの。

 それならば、例え飛逹と恋人関係になっても、お互いに、一生恋、恋愛感情をわからないのではないか。

 そう思っての、あの発言。

 しかし、飛逹は世界が終わったような、否、言葉に出来ない程の顔であった。

 その時にわかった。飛逹と僕は、目的が違うのであると。

 けれど、飛逹の目的が分からない。恋愛を理解する為になったんじゃないのか?それ以外に何があるんだ?飛逹は神のように達観しすぎて分からない。日頃から時々変なことを言うからな。まるで人生を悟っているような、人生が二周目のような。

 達観…?まさか、

 恋愛の内容を理解するのではなく、恋愛が良いことなのか、人間がどのような存在なのかを理解するためだとしたら?

 もし、人間がどうしようもないものだと思ってしまったら??

 死。これが浮かんだ。

「自殺…?」

 飛逹のことを調べた時、両親が交通事故で何年も意識不明重体であることは知っていた。

 もし、彼らが死んでしまったとしたら?つまり、死に何ら躊躇無いのでは?

 もしかしたら、否、確実に僕はしてはいけないことを犯した。

「飛逹!!!」

 そう叫び、飛逹を追いかけた。が、商店街に入られ、見失ってしまった。家にも訪れたが、インターホンを押しても応答はなく、人の気配が感じられなかった為に、薫科哉は家に帰った。今思えば、もっと執着しなけれならなかった。

 翌日、考えたくない、現実逃避をしたくなるようなことが分かった。

「飛逹くんが行方不明になりました」

「は」

 朝、いつもの時間になっても飛逹が来なかった。今日、撮影があるかどうかは知らされていなかったので、撮影があるか、もしくは僕が無視されているのかと思い、学校に行ったら必ず何故あのような発言をしたのか、説明をしようと思った。

 校門を潜り抜けた時、先生から朝の読書の時間に職員室の隣にある、応接室に行くように言われた。

 それで、これだ。

「君なら知ってるかもしれないと思ってね」

「しらない…です」

頭から冷たい血液が流れていっているような、頭に乗せた雪が溶けて滴っているかのような、そんな感覚を覚えた。

「やっぱりそうだよねぇ…」

「…」

「ごめん、本当にショッキングな話だからね、単刀直入に言わせてもらった」

「いえ、お構いなく」

そんなことを言って、何でも無いような顔をした。そんなこと無いのに。

 行方不明、とは災害、事故などの事情でその人物の居場所や行き先、消息、安否などが不明になっている状態。つまり生命が危うい。

 親子喧嘩…この場合奏多さんとだが、それで行方不明になるとは考えずらい。何せ奏多さんが凄まじく過保護だからだ。

 となると…。

 俺が原因。その結論しか出すことが出来なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る