第27話 戦闘狂達の本授業
「そこ、さっき体軸ズレてたよ。小さい体でも体軸を正せば綺麗に防御できる。良いね」
「はい!!」
「ヒタツは小さい女の子にでも厳しいんだね」
「何処がだよ。甘々だわ」
ヒタツがそう言うと瑆は溜息を付いた。
「まぁ…国から依頼されてるし仕方ないか…最近僕溜息しかついてない気がするよ」
「それくらいが丁度良いんだよ」
ヒタツはそう言うと、違う子を教える為に歩いて行った。
「瑆さん!この動作もう一回やってください!!」
「良いよー」
瑆はそう言って笑った。
ヒタツと瑆は、ソファに勢いよくもたれ掛かった。
「…」
「…」
沈黙が続き、時計の音、鳥の囀り、子供達の元気な声が、部屋に鳴り響いた。
「疲れた…」
ヒタツはそう言って呟いた。
「子供って…元気だよねー」
あの後、授業が終わった後子供達に振り回された。最初の五分は意気揚々と付き合っていた二人だが、時間が経つにすれ手加減、というものをしなければならない事に気付き、一気に体力が減ったのだ。
「まぁ…俺らも十六だけどな…」
「ほんとに時々自分の年忘れるよね…」
「三十代だろ、この労働具合は」
「なんか嫌になってきた」
「地球が終わるぞ」
ヒタツはそう言うと、コップの中に入っていた水を一気に飲み干した。
「次だ。次。次は中学校なんだ。未だスムーズに行く筈だ」
ヒタツがそう言った瞬間、廊下から走ってくる足音が聞こえ、暫くすると扉が勢い良く開いた。
「次行きましょう!!お二方!!」
女性はそう叫ぶと同時に表情が固まった。
「すみません、ノックを忘れてしまいました」
「いえいえ、次から気を付けていただければ」
ヒタツが笑い掛けた。
「す、すみません…!!では、参りましょう!!」
女性は元気よく、拳を突き上げた。本当に元気な人だ。
「これは…?」
「浮遊魔術です」
「またここにも魔術師が?」
「はい。この国には魔術師が沢山いるんですよ。ほら、魔力が他国よりも充満しているでしょう?」
「それはそうですね…。というか、貴女も魔術師なのですか?」
「いえ、私は視えるだけで魔術は…」
「なるほど、不魔術師でしたか」
「恥ずかしながら。一族全員不魔術師なんですよ…」
女性が頬を掻いた。
「別に…恥じることは無いと思いますけどね」
「え?」
女性が目を大きく開いて口をぼんやり上げた。
「魔術師だから非魔術師や不魔術師よりも偉い、というわけはありませんよ。魔術師は確かに、非魔術師や不魔術師よりも力はあります。しかし魔術師の食べるものは殆どが非魔術師と不魔術師が作ったものですからね。お互い、長所と短所があるものです」
ヒタツはそう言いながら歩いていたが、ふと、女性が隣に居なくなっていることに気付いた。やや後ろにいた瑆を見ると、後ろをじっと見つめていた。視線を追うと、そこには下を見ている女性がいた。
「えっと…」
「あはは」
女性が初めて笑った。
「初めて言われました。そんなこと」
女性は顔を上げた。
「優しい人なんですね」
女性___そうだ、思い出した、自己紹介してた、___ルナさんは頬を赤らめて、言った。
「俺は貴女が思うような優しい人間じゃあありませんよ。ルナさん」
ルナは、大きく目を開いた。そして、同時に瑆も目を大きく開いた。
「良かった。名前、忘れられてたのかと思いました」
ルナは、嬉しそうに笑った。
途端、銃声。ヒタツは左手を胸のあたりまで上げ、中指と人差し指を立て、親指は人差し指とL字型になるようにした。銃弾が止まる。その間にルナを横抱きにした。
「ひやぁっ」
「瑆!!」
「わかってる!!!」
瑆は両手の薬指と小指をそれぞれ絡ませ、残りの六本を花を作るように広げ、相手に向けた。
『光輝燦然 散切』
突如目が開けられないほどの光が起こり、目を開けた頃には、色々なものが細かく、切られていた。
「へぇ?繋がってるじゃん。さては、治癒魔術を使える口?」
「ご名答」
黒いマスクを被った、全身黒い服を着た敵が言った。
「さて、次は俺の番、だなっ!!」
敵は右手を下から上に半円を描くように勢い良く動かした。すると、一直線に炎が三人に向かって立ち上がった。
「瑆はやや相性が悪いなぁ…。それじゃあ俺だな。ルナさん、持っといて」
そう言ってヒタツは後ろに下がってきた瑆に、ルナを優しく投げた。
「おお、次はヒョロそうなガキか。さっきのガキよりかは背は高いが…まぁヒョロいのには変わりないな」
「あれ、俺たちの顔知らないんだな。それじゃあ楽勝じゃん」
あれが使える。ヒタツはニヤリと口角を上げた。
「本授業だよ。オッサン」
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