第26話 戦闘狂達の授業
「これさ、普通に最初から転移した方が早くない?」
「座標を計算するのが面倒くさい。し、馬だけで動く馬車は興味深いだろ」
「それはそうだけど…でも、ヒタツ頭良いから良いじゃんー」
瑆が頬を膨らませた。それを見たヒタツは、瑆の膨らんだ頬を両方の人差し指で迷うことなく突き刺した。ぷっ、という音が鳴る。
「遊ぶなぁ!僕のほっぺたで!」
「膨らんでたからつい」
ヒタツが意地悪に笑った。
「お二方!!何か怪我は!!」
そうこうしていると、前方から、女性が大きく肩から手を振りながら走ってきた。
「ご安心を。有りません」
ヒタツがニコリと笑いながら言った。するとその女性は顔を赤らめながら「そうですか。良かったです」と言った。
「あ、改めまして私、ウェーダム中学校で数学を教えている、ルナです。そして、この一週間の案内係です。よろしくお願い致します」
「貴女がルナさんでしたか。一週間よろしくお願い致します」
「は、はい!!それでは先ずはここから十分程のウェーダム小学校の方に向かいます私が先頭で歩きますので、着いて来てくださいね」
「承知致しました」
そうして三人は歩き始めた。
瑆がヒタツの方に寄り、小声で話しかけた。
「出たよ、ヒタツの女たらしムーブ」
「面倒臭いからな。女は」
「ユーゴーに怒られるよ」
「大丈夫、聞こえてないから」
ヒタツがそう言うと瑆は悪戯っぽく笑った。
「起きたら言っちゃおー」
「好きにしろ」
ヒタツはそう言うと前を向いた。
十分後、三人はウェーダム小学校、と彫られた大理石の前に居た。
「鍵を開けますので少々お待ちください」
女性はそう言うと、懐から一本の金で出来た鍵を取り出し、所々錆びている校門に埋め込まれている鍵穴に挿し、時計回りに回した。
「どうぞ」
「失礼致します」
二人はそう言って、小学校の中に入っていった。
「生徒達は体育館で待機しています」
「寒くないんですね」
「実は、ウェーダム地区には暖気を扱う魔術師がおりまして。その方が温めてくれているんです。」
「それは有り難いですね」
ヒタツが笑い掛けると女性が又もや顔を赤らめた。それを見た瑆は肘で横腹を突いた。
火のついていないシャンデリア。倒れた玉座。ボロボロに引き裂かれたカーテン。粉々に割れた陶器。金具が曲がり、中央に大きく穴が空いたドア。それらがある、異質な部屋の中に男がいた。
「残念だなぁ…この人だったらあの二人の居場所が分かると思ったんだけどなぁ…」
男が唇を軽く撫でた。
「この国のどこにいるのかな。早く見つけないといけないのに」
「それにしても…あいつらは本当に役に立たないなぁ…。直ぐに拘束されちゃうし。殺すしかないか…」
男は溜息をついたが、直ぐに口角を上げた。
「早くあの二人の唆る顔が見たいな。絶対に瑆は可愛い顔をする。ヒタツはどんな顔するのかな…」
男はゾクゾクと背中の方から這い上がってくるカタルシスを感じた。
ヒタツは勢いよく後ろを向いた。
「ヒタツ?」
瑆は若干の戦闘体制に入ったヒタツを訝しんだ。殺気は感じない。
「いや…何でも無い」
「…一応警戒しておこう。ヒタツが感じたのであれば何かあると思う。しかも、早速命を狙われているわけだし」
「お二方、授業開始のお時間です」
先に児童に注意事項等を説明すると言って体育館の舞台の上に出ていった女性が戻ってきて、少々小さな声で言った。
「了解です」
二人はそう言って、舞台につながる階段を登った。
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