第24話 戦闘狂達の歯車

「任務内容を嘘つくような人の依頼、受けて良かったの?」

「一つの国でも味方に入れておいた方が良いだろ」

 我々、魔術が使えるものは、魔連、魔術統率国際連盟に、定期的に呼び出され、大規模な任務に出向くことがある。

 しかし、それは国境を跨ぐ事があり、魔連の登録をしていない国を通過する時には、許可を貰う必要がある。

 その為にも出来るだけ多くの国々を味方につけ、スムーズに任務を随行できるようにしたいのだ。

「それはそうだけど…なんか嫌な予感がするんだよなぁ」

「…詳しく。お前の予感は信憑性が高いからな」

「…今回の任務、一筋縄ではいかない、と思う」

ヒタツが眉間に皺を寄せた。

「魔術を使う心構えは取っておいた方が良いと思う」

「…わかった」

 瑆の予感はよく当たる。敵の行動を予測した時、瑆が「なんか違う」と言い、作戦を変更すると、見事に釣れる場合がたくさんあるのだ。

「取り敢えず、今日から一週間はしっかりと休まないと」

瑆が体を伸ばしながら言った。

 拳が絡まり合う。一歩間合いを取る。拳がぶつかる。大きく引く。呼吸が荒くなる。感覚が研ぎ澄まされていく。

「はい、俺の勝ち」

瑆は肩を上下に揺らしながら、激しい呼吸を繰り返した。

「強…すぎ…」

「これくらい当然」

ヒタツは額から垂れた汗を拭い取った。

「瑆はさ、最初の方は良いんだけどさ、最後の方になるとさ、重心がぶれっぶれになるわけ」

「つまり体力を付けろと」

「そういうこと」

ヒタツがにこりと笑った。その笑顔を見て、瑆は「うわぁぁん!!」と叫びながら、緑の芝生があるところまで走り、寝転んだ。

「トレーニングしたくないよぉ」

「はいはい」

ヒタツは瑆のところまで歩き、水筒を手渡した。

「ありがと」

蒸し蒸しとした、焦ったい夏のことであった。

 一週間後、ヒタツと瑆の二人は、エリカル女王が手配した大型の船に乗っていた。

「さっむっっっ!!!」

「じゃあ中にいとけよ」

ヒタツがそう言うと瑆は襟に顔を埋めながら「やだぁぁ!!」と叫んだ。

「はぁ…」

「つかなんでヒタツはこんな極寒で余裕なのぉ?」

「こんなの余裕じゃなかったらダメだろ」

「あぁ!!僕への暴言ですかぁ!?傷付きましたぁ」

瑆が唇を窄めた。

「あともう少しの辛抱だ。陸に付けば風が少なくなる分幾分ましだろ」

「それだと良いけど」

瑆がそう言ってしゃがんだ。

「瑆、そんなところでしゃがむな。…中に入るぞ」

「やったぁぁ!!」

瑆が嬉しそうに飛び跳ねた。

 五時間後、やっと島が見え始めた。どうやら猛吹雪でやや航路がずれてしまっていたらしい。

「やっと見えた。長かったぁ…」

瑆が骨をポキポキと鳴らし、伸びながら言った。

「それはそうだな」

「だよねぇ…」

 そんなことを話していると、いつの間にか着いていた。

「ようこそお越し下さいました。ヒタツ様、瑆様」

 あの日、宮殿で二人を出迎えた男が頭を下げた。

「今回はよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願い致します」

双方が頭を下げた。

「さて、此方の馬車にお乗り下さい。先ず宮殿に向かい、その後に早速子供達のいる学校に向かいます。把握、よろしくお願い致します」

「承知致しました」

二人は馬車に乗り、宮殿に向かい始めた。

 この日から、戦闘狂達の、全ての歯車が回り始めた。

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