第23話 戦闘狂達の回心転意

「で」

 瑆がビクッと、肩を震わせた。

「何でお前がいるんだよ」

補助官が指定した場所に着いたヒタツは、何故かいた瑆に言った。

「…」

「返事しろよ」

ヒタツは、幾ら呼び掛けても返事ひとつしない瑆に、苛立ちを覚えた。

「良い加減返事…っ!」

瑆は、肩を震わせたかと思うと、足元に水滴を垂らした始めた。

「…い」

瑆が一歩踏み出した。

「…なさい」

「ごめんなさい…」

瑆がヒタツに駆け、そして、思い切り抱きついた。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!!もう無理!ヒタツまで居なくならないでぇっ!!戦うのいっぱいしていいからぁぁ!!一緒にするからぁぁ!!!会いたいぃぃ!!!!!」

ヒタツが目を大きく開いた。

「やだぁ!!!離れたくない!!!一緒に暮らさなくてもいいからぁぁ!!一緒に戦いたいぃぃぃ!!!!僕が戦えなくなるまで一緒にいてよぉぉ!」

 顔をぐっちゃぐちゃに歪め、涙は滝のように流れ、ただただ大声を上げて誰かに縋る瑆を、見た事が無かった。

「あぁぁぁ…もう泣くなよ…」

ヒタツは瑆を抱き締めた。

「あえ…?」

瑆の体が固まった。

「そんなに泣いてたら任務できねぇだろうが…」

ヒタツがそう言うと、瑆は大きく目を開き、そして、花が咲いたように笑った。

「ほら…ハンカチ」

「ん…あのね、本当はね、一緒に暮らしてほしい」

「はいはい…そろそろ補助官が来る頃だぞ。そんなみっともない顔を見せるつもりか?」

結局、ヒタツは瑆に甘かった。

「ヒタツの背中に張り付いたから」

「叩くぞー」

瑆は目を細めて、幸せそうに口角を上げた。

 大きな宮殿の門の前で、馬車が止まった。

「こちらです」

補助官が扉を開けた。

「なるほど…ここにいらっしゃるんですね」

「はい、ヒタツさん達には、エリカル様の、大陸での護衛をとのことです」

「了解」

補助官が頭を下げた。

「それでは」

瑆は大きく両手を左右に振りながら飛び跳ねた。

「行動が五月蝿い。宮殿の中だぞ」

「ワクワクしてるの!仕方ないでしょ!」

ヒタツは白目を剥き、両手を軽く上げた。

 しばらく宮殿の方へ歩いていると、一人の男が立っていた。

「ようこそいらっしゃいました。ヒタツ様、瑆様」

「はじめまして、今回護衛を担当させていただきます、ヒタツです」

「瑆です!」

「こちらこそよろしくお願いします。早速ですが、女王様がお二方をお呼びです」

「承知致しました」

三人は、宮殿の中に入っていった。

「女王様、お二方です」

「どうぞ」

 扉が開くとそこには、床一面が大理石であり、半径が一メートルはするシャンデリアが一つ吊られ、その周りに、その半分くらいの大きさのシャンデリアが吊られていた。また、壁の枠組みは金で作られており、そのため、部屋の中が殆ど金であると言っても過言ではないほどであった。

「お待ちしておりました」

エリカル女王が頭を下げた。

「エリカル女王!?頭をお上げ下さい!」

ヒタツが焦ったように言った。

「いいえ、今から話すことは本当に由々しき事態なのです。そして、あなた方に協力してもらいたいのです」

「と、言いますと」

ヒタツが眉を顰めた。

「では、此方の地図を見てほしいのです」

エリカル女王が、北極海のちょうど真ん中辺りを指した。

「ここが、我が国です」

「本当に中央ですね」

「そう、それが大きなポイントなんです。我が国が、中央であるばかりに、様々な国が我が国の占領を目指しているのです」

エリカル女王が眉を顰めた。ヒタツが顎に手を添えた。

「確かに、ここを取っておいた方が戦争が起こった時に攻めやすいからな」

「しかも、一回取ってしまえば更に取りにくくなるわけだからね…結構良いよねー!」

瑆がニコニコと笑みを浮かべながら笑った。

「その通りなんです。我が国をとってしまえば、南北から様々な国々を侵略する事が可能なんです」

「なるほど。そして、我々は何を」

「子供達に、剣術を教えて頂きたいのです」

「それは、我々の行動理念に違反していますが」

ヒタツが眉を顰めた。

「戦争の為にでは無く、護身術としてです。小さい子供に、最低限の護身方法を、教えて頂きたいのです」

「……わかりました」

「一週間後に我が国に到着、それから一週間教えて頂きたい」

「承知致しました」

こうして、エリカル女王の護衛ではなく、ドイタニア帝国の子供達の護衛が始まった。

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