第21話 戦闘狂達の亀裂

「はあ…」

 男が片手にスコップを持ちながら額を拭った。その男は黒い帽子を被っていて、服も靴も全てを黒色であった。

「これで大丈夫」

男はスコップの柄を半分に折り、それからまた散り散りにした。

「全く…何故逃すんでしょうねぇ。本当に存在価値、あるんでしょうか」

その男から、血の匂いがした。

「んっ…」

 ヒタツは体に重みを感じて目を開けた。どうやら、ソファで眠っていたらしい。そして、体の重みは瑆とルカの腕のせいであったようだ。ヒタツは体を横にして寝ていて、前から瑆、後ろからルカがヒタツのことを抱きしめていた。

 なんだか変な感じがして、ヒタツは瑆のことを力強く抱きしめた。そして、後ろを向いて、ルカの匂いを感じながら、もう一度眠りに着いた。

 今となっては、プライドなんぞどうでも良かったのだ。ただただ、二人の意識があるだけで、良かったのだ。ユーゴーが、目覚めるのを三人でひたすら待ちながら、三人で毎日一緒に寝るだけで良い。

 それだけで、良かったのに。

「おい、ルカ。何だよこれ!!!」

 ヒタツがソファに座っているルカに見せつけたのは、ある一封の封筒であった。

「あー、中身見ちゃったんだ」

「死刑って…一般人殺害…?」

「んふふ、そう。後もう少しでここに来るんじゃないかなぁ」

ルカはそう言ってソファから立った。

「洗濯や皿洗いは水術、服を干すのは晴れた日に一気に。良いね?」

「は?」

「それじゃあ瑆をよろしく」

ルカはそう言いながら手を振り、扉を上げた。

「ルカ…?」

 その日、ルカは拘置所に収容された。

「なんでっ!?なんでとめなかったの!!??一緒に逃げてくれたら良かったのにっ!!!!」

「…」

「何か答えてよっ!!」

 その後、仕事で居なかった瑆はヒタツに怒鳴りつけていた。

「ルカのことだから、何か考えてる」

「そういうことを言って!!後に後に回してるからユーゴーの意識が無いんだよ!!!!!」

「そんなの、そんなの言うんだったらお前がやれば良かっただけだろ!?」

「お兄ちゃんでしょ!?」

「同い年だろ!!!」

「僕三月生まれでしょ!?」

「違うの良い時だけ言ってんじゃねぇよ!!!」

 そう言ってヒタツは強く瑆を睨み、扉を開け、部屋から出た。

「ユーゴー…」

 ヒタツはユーゴーの病室に来て、ベッドに上半身を預けていた。

「もう俺…」

ヒタツの心はボロボロであった。ユーゴーの意識不明の状態、ルカの死刑、そして瑆との喧嘩。

 気づけば視界が歪み、涙が目尻に流れていっていた。

「ユーゴー」

ヒタツはユーゴーの左手を優しく握った。

「考えるの面倒臭いよ…ユーゴー」

 全部ユーゴーが考えて欲しい、毎日ユーゴーと話したい。

 俺には無理だ。こんなの。あんまりだ。何で置いていったの?可笑しくない?

 そんなことを考えると扉がノックされた。

「何」

「ヒタツ様、任務です」

 それからヒタツは、より一層任務にのめり込むようになった。切って、切って、捻って、締めて、切って、回して、捻って、切って切って切って。

 その時は何も考えなくて良かった。ユーゴーが意識不明なのも、ルカが死刑なのも、瑆と喧嘩したのも、全部、全部。ある日、ヒタツのたった一人の先輩がこう言っていた。「戦闘できるか否かがヒタツの行動の指針」であると。ヒタツはその言葉がしっかりとハマった事を感じた。納得した。けれども思った。「それって戦闘兵器なのでは?」と。

 いつしか、ヒタツには感情というものが無くなっていた。

 戦闘するために呼吸をし、戦闘するために食事をし、戦闘するために人と会話し、戦闘するために宴に出席し、戦闘するために愛想を振り撒き、戦闘するために戦闘した。

 本当に、戦闘兵器になってしまった。けれど、こうなった不思議と後悔は無かった。

 もし、唯一あるとすれば、瑆と仲直りできていないことだけであろう。あれからあの感情の塊である瑆と、会話出来なくなった。否、したくなかった。自分が壊れてしまいそうで。もし、誰かがヒタツを戦闘兵器ではないと言い張るのであれば、ここだけであろう。

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