第20話 戦闘狂達の涙

「ユーゴー!!!」

 ヒタツ、瑆、ルカ、の三人は、ユーゴーが運ばれた病院に転がり込んだ。

「お三方、こちらです!」

顔馴染みの若い医師が手を振った。

「ユーゴーさんは銃で撃たれました」

「は?」

「そしてどうやら…味方から撃たれたようです」

それを聞いた瞬間、三人が片眉を上げた。

「それは本当ですか」

「えぇ、近くにいた人の目撃証言もそうですし、何より、敵にこんな至近距離から撃たれるような方ではないでしょう」

それはこの三人が一番わかっていた。だからこそ分かりたくなかったのだ。人は、人間は、こんなにも醜い裏切りをすることを。

 ユーゴーはみんなのお姉さん的存在で、部下からも慕われていた。そして、程よい筋肉を保ちつつ細身であった為、よく女から筋トレの方法を問われていた。

「取り敢えず、緊急手術を行いました」

「成功したんですか」

「成功はしましたよ。けれども…いつ目を覚すのかはわかりません。これからはユーゴーさんの病室に案内します」

その医師は椅子から立った。

「わかりました」

そうルカが返事した。ヒタツと瑆は何も喋らなかった。

 ユーゴーの病室、というか病棟は少し離れにあった。木々がまるでその病棟を体で覆い隠すように、守るようにしていた。

「こちらです」

 中に入り、667と書かれた病室に入ると、そこにはあらゆるチューブで繋がれたユーゴーがいた。

「そんな…」

瑆が泣き崩れた。それをルカが抱きとめた。

「ユーゴー」

ヒタツが、危うい足取りでユーゴーの眠っているベッドへ近づいた。

「ユーゴー」

ヒタツがユーゴーの手を優しく触った。

「ユーゴー…俺はどうすれば良い?」

ヒタツが、ユーゴーの手を優しく握った。

「そいつを殺せば良い…?なぁ、どうすれば良い…?」

 不思議と、涙は出ていなかった。ヒタツにあったのは、ただただ、ユーゴーを撃った奴に対する殺意と、ユーゴーを心配する気持ちだけであった。

「ヒタツ、落ち着いてください」

「だって!!!こんなの、許されるわけねぇだろ!!!!!!」

ヒタツが大きく息を吸った。

「いっつもいっつも!!!!!ユーゴー様が頼りだぁ、瑆が頼りだぁ、ルカが頼りだぁって言ってるくせによぉ!!!!何なんだよ!!!!!!恩を仇で返すなよ!!!!!!!ユーゴーはいつもいつもみんなを助けるって言って!!!いっつもいっつも!!美容オタクな癖に!!!睡眠を削って!!!!助けてたのに!!!!!それなのに撃たれて!!!こんなの!!!許されると思ってんのかよ!!!!」

医師は、静かに扉を開け、部屋から出た。

「俺は何回も言った!!!人はいつ裏切られるかわかんねぇ!!!だから!!そんなにすんなって!!!!だからこうなるんだよっっ!!!!人は信用したらダメなんだよ!!!!!」

「ヒタツ」

ルカはそう言って、ヒタツを思い切り抱きしめた。

「!?」

「そうだね、ヒタツ。お前は正しい。だけど、ユーゴーも正しいんだよ。どちらの考え方も理に適ってるんだ。世の中にはね、そういう事が沢山あるんだよ。だから」

ルカはヒタツをより一層抱きしめた。

「今は泣いてあげよう?ヒタツ」

ヒタツはそれを聞いた瞬間、視界が歪んだ。

「だってぇ…」

「うん」

「アイツ、俺達にお土産の買ってきてないぃ…」

「あははは」

ルカが口を大きく開きながら笑った。

「…あ、寝ちゃった…って瑆も寝てる」

ルカが目を細めて微笑んだ。


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