戦闘狂達の話

第19話 戦闘狂達の話

 これは、戦闘狂達の話である。

「はぁ…」

 ヒタツはソファの背凭れに勢い良く凭れ掛かり、首を後ろに倒した。

「こぉら、ヒタツ君?溜息ついちゃ、メ、よ」

「仕方ないだろ…さっきまで宴会だったんだから」

「そうねぇ…まぁ、アタシは今回は行かなくてよかったからラッキーだわ」

「ッチ、来いよ、ユーゴー」

_____ユーゴー。ユーゴーは、オレンジ色の長い髪を持った、所謂、オネエ、だ。

「仕方ないじゃない。可愛いオンナノコたちを振るのは心が痛むのよ。アンタとは違ってね」

ユーゴーは、爪にネイルを塗り始めた。部屋にネイル特有の少しツンとくる匂いが漂いだす。

「なんで痛むんだよ」

「心があるからよー。良い?オンナノコは直ぐに心にヒビが入っちゃうんだから。何よりも慎重に扱わなきゃダメよ」

「女ってめんどくさ」

ヒタツは体を傾け、ソファに寝転がった。

「女、じゃなくて女の子、ね」

「はいはーい」

別にそんくらい良いだろ、とヒタツは心の中で唱えた。

「それで?アンタ結婚する気は無いの?」

「無い。めんどくさいし」

「はぁ…その発言、世の男たちが聞いたら卒倒するわよ」

「何でだよ」

ヒタツが眉間に皺を寄せた。

「だってアンタめちゃくちゃモテてるのに結婚願望無いのよ?そりゃあ、結婚願望のあるモテない男共は卒倒するわよ」

「知らねぇし」

「はぁ…口調を直しなさい」

「はぁ?何でだよ」

ヒタツが片眉を上げた。

「今はアタシたちがアンタの周りにいるけど、いなくなったらその口調は世間には受け入れられないわよ」

「はぁ?まず、お前らがいなくなるとか、あり得ねぇだろ」

「それはそうだけど、アタシたちは殆どの時間、戦場にいるのよ。命の保障は無いわ」

「俺たちは周りとは違う」

ユーゴーが今塗っている色とは違う色の入った容器を開けた。

「えぇ、そうよ。私たちは魔術を使う。けれど、敵にもいる。そうでしょう」

「…」

「はぁ…まぁ良いわ。この話は後でする。…さて、ヒタツ。扉の弁償代はきちんと用意できてるんでしょうね」

「…まさか…!」

「残り1キロメートル」

その途端、大きな爆発音がした。何処かで爆弾が爆発したのか、否、これは扉が外された音である。

「あれ、ごめん。ここって引き戸だっけ」

「そうだが?」

「ごめぇん、スライドしちゃった」

「ここは日本じゃないのよ」

てへっ、と笑ったのは瑆。日本人で、髪は真っ黒で、瞳も真っ黒だ。瑆は力が常人の十倍以上あり、殴られたものは一発で死界道へ繋がる、つまり死ぬ、とも言われている程だ。しかしとても元気な子で、嫌われていない。なんだかんだ言って、みんなで末っ子のように接されている。

「どうすんだよこの破片共をよ!!」

「えぇ…?うーん…どうしたら良いの!?ユーゴー!!!」

「いや、知らないわよ。アンタの財布から出しなさいよ。弁償代」

「はいはーい」

瑆はそう言って元々ヒタツが座っていたソファに座った。

「瑆、邪魔」

ヒタツはそう言って、瑆をソファの端に追いやって座った。

「そういえばさ、聞いてよ二人とも!」

「何よ」

ユーゴーは、紅茶を口に含んだ。

「今日プロポーズされちゃった!!」

瑆がそう言った瞬間、ユーゴーは激しく咽せた。

「はぁ!?プロポーズ!?お前が!?」

「うん!男に!!」

瑆がそう言った瞬間、ユーゴーが血相を変えて瑆の下にスライディングした。

「アンタ、変なことされてない?!大丈夫!?男は狼なんだからね!?」

「僕も男だよー!!」

「そういう意味じゃなくてねぇ!!」

「変なことはされてませんよ」

「そうだよねー!ルカ!」

_____ルカ。緑の短髪で、グラスカードをつけたメガネを掛けている。ヒタツ、ユーゴー、瑆、ルカ、この四人の中で、一番「常識人」と言われている。しかし、戦闘狂である。

「えぇ、ずっと私が監視していたので間違いありませんよ」

「ルカぁ!その、監視、って言い方やめてよー!」

「それではまず、目を離した瞬間に迷子になるのをやめてもらえますか?」

「うーん…多分無理!」

「死刑です」

「はぁ…取り敢えず一週間戦場だけど、何かお土産欲しい?」

「ご当地の何か美味そうなの買ってきてー」

ヒタツは背凭れから顔を覗かせた。

「OK、んじゃあ行ってきます」

その五日後、ユーゴーは意識が無い状態で帰ってきた。

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