第16話 クソ人たらし!!!

「ってことがあったんだけどさ?」

「気が狂ったんだよ。それ、今までの薫科哉君じゃあり得ないでしょ」

 やはりおかしいらしい。あの後即帰宅し、即奏多に質問した結果がそれである。

「いきなりどうしたんだろ」

そろそろ恋人生活(偽)で頭が可笑しくなってしまったのか?

「まぁ…もう考えるの面倒臭いや…」

 恋人生活(偽)3日目、僕は疲れました。

「おはよー」

 神様。今日俺は、薫科哉との約束を破りました。

 あれは一時間前。いつものように七時に起床すると薫科哉から交換していたライムが届いた。その内容は「迎えにいきます」だ。本来俺らは俺が撮影が無い日、つまり朝からずっと学校に行く日、もしくは午後から撮影がある日には一緒に登校する約束を交わしていた。俺の家と薫科哉の家と学校は同一直線上にあり、俺の家の方がより遠い為、俺が薫科哉の家にいつもだったら行っていた。しかし、今日薫科哉は俺の家に来る、つまり逆走してくるというわけだ。意味がわからない。あの合理性の塊のような薫科哉がそのような非合理性の権化のような行動をするとは思えず、君が悪くて既読無視で学校に一人で来てしまったのだ。恐らく…薫科哉が学校に来れば俺は何かしらの制裁を受けるであろう。

「飛逹君おはよー!…ってあれ、薫科哉くんは?いつも一緒に来てるのに」

「あ、あー…ちょっと朝体調悪かったみたいで。一人で来たんだよね」

「えー!?そうなの!?心配だなぁ…」

そう言いながらこの女の子は少し嬉しそうな顔をしている。…何故だろうか。

「なんか今日ご機嫌だね」

「え、え!そうかなぁ?」

あ、また嬉しそうな顔をした。そうかそうか、女の子はこんな感じのことを言えば嬉しいんだな。なるほど。

「あはは、わかるヨォオッ!?」

「飛逹君?」

顔を上げると鬼の形相をした薫科哉の顔があった。

「あ、えっと」

「言い訳は後で聞きます」

薫科哉はそう言って俺の腕を掴み、引っ張った。

「さ、じっくりとお話ししましょうねぇ」

薫科哉が口角を上げ、目を細めた。

 三階から屋上につながる人気の少ない階段の踊り場で男が二人、飛逹と薫科哉が立っていた。そして薫科哉は飛逹の両腕を頭上で押さえ、所謂壁ドンをしていた。

「薫科哉…?」

「僕今日迎えに行くって送りましたよね。既読ついてましたよね」

「そんな記憶…」

「じゃあ何故僕の家に来なかったんです」

「行った…」

「母上に訊きましたが来てませんよね」

飛逹がどれだけ発言、どちらかといえば言い訳、をしても間もなく薫科哉が逃げられないように言葉を重ねる為、飛逹はたじたじであった。

「えっと…」

「次したら許しませんからね」

「え、あ、うん…」

「良い子です」

思ったよりも直ぐに許され、飛逹は困惑した。が、許されないよりかは断然マシである為受け入れる。

「あ、薫科哉待って!!」

「なんです」

「今は恋人とか置いて聞いて欲しいんだけど、何でそんなに積極的になったの」

「…君がストーカーに刺されないようにするためですよ」

「え…?」

「…自身の人たらし度を理解した方がよろしいかと」

「はい?」

飛逹は唐突なことに思わず首を傾げる。

「良いですか?君はクソ人たらしです!!!!!!」

 飛逹ハ、「クソ人たらし」ノ称号ヲ手ニ入レタ。

「冬那、俺ってクソ人たらしだと思う?」

「聞かれるまでもなくイエスでしょ」

 冬那がクソデカパフェを頬張りながら言った。

「何処が」

「全てが」

冬那は即答した。

「私のことは放って薫科哉と純情物語を開始するし」

「何処がだよ」

「雰囲気が甘すぎて泣ける」

「でも冬那コミュ障治ったじゃん」

「荒治療すぎんだろ!」

そう、冬那はコミュ障が治ったのだ。本人曰く、「中一で孤立するとその後の学校生活は死刑囚と同等」らしい。だからこそ、心の中では全力で震えながら、持ち前の顔を活かして精一杯馴染んでいるらしい。最近はもう慣れているようだ。

「あ、無くなった」

「よし、んじゃあ俺これから撮影だから」

「じゃあねー、サングラス不審者野郎」

冬那はコミュ障が治った代わりに俺に対する毒舌が発症してしまった。悲しい限りである。

 というか…薫科哉があれをやったからって何が起こるんだ?????

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