第15話 テスト

「はじめての定期テストまであと2週間です。しっかりと勉強してくださいね」

 という担任の声を聞いてそういえば中学校には定期テストというものがあったな、と思い出した。

「なあ、勉強した?」

「何が」

「定期テスト」

「当たり前」

「わーお、それはびっくりだぜ。テスト簡単かなぁ」

「過去問ありますけど。知り合いが貸してくれたやつ」

「マジで?やりたい」

そういうことで俺は薫科哉の家に初上陸を決めることになったのだ。

「お邪魔します」

 靴を揃える。

「はいはーい…ってぇぇぇぇぇぇ!!????」

「母上!!???何故ここに!!?」

「いやいやいやいやいやいやいやいやそんなことよりも!!はっ!!??」

長いスカートを履いた、「あぁ…うん、薫科哉のね…お母さん…わかるわ」って感じのお上品な女性が、すっごい大声を出して驚いている。

「……薫科哉、言わなかったの?」

「…仕事で家にいないって言ってたから友達が家に来るとしか言ってない」

「マジかぁ…」

「薫科哉!!アンタ、はじめてお友達を家に招待して感動したけど、演陵 飛逹くんを連れてくるとは聞いてないわよ!?」

薫科哉のお母さんが薫科哉の肩を力強く掴んで前後に揺すった。

「言ってないから…」

「言いなさいよ!!!!!ごめんね、お菓子とか何もなくて!!」

「いえいえいえ、お構いなく」

「うわぁ、本物…」

「ちょっと母上!!」

「うちの子が迷惑を掛けてない?大丈夫??」

「いえいえ、本当に何も。むしろ僕が我儘をきいてもらってるかんじで」

俺は微笑んだ。

「ゆっくりしていってねぇ」

「ありがとうございます」

「はぁ…着いてきてください」

薫科哉はそう言って階段を登っていった。

「あ、では」

「はーい」

俺は薫科哉に着いて行った。

「そこに座ってください」

「どうも……なんか、薫科哉って感じがするな」

「どういう感じなんです??」

 天井に届きそうなほど高さがあり、そして横幅が二メートルくらいありそうな本棚が二つ、それの縦横それぞれが半分くらいの本棚が一つ。それらが置かれていない壁一面にはさまざまな論文やジグゾーパズルがかけられていた。勉強机の横にあるまたまた小さな本棚には、教科書や参考書がびっしり詰まっていて、まるで中学校一年生の部屋だとは思えないくらいであった。

 俺が部屋を見ていると薫科哉が分厚いファイルを引き出しから取り出して、何やら探し物をしていた。

「何探してんの?」

「例の過去問です…」

その分厚いファイルの背表紙に大きく「中学校 過去問」と書かれているため、何となく想像できたが、流石にその分厚さは未だ中学一年生の過去問の数ではなかった。そろそろ恐怖心が湧いてきそうである。

「あった!」

そう言って薫科哉はその紙束を俺の前にあるセンターテーブルにドン、と音を立てて置いた。

「さ、どうぞ。解いてください」

「い、今から?」

「当たり前です。君が苦しんでいる姿を見てみたい」

「ドSだなぁ…」

俺はそう言いつつ、カバンの中から筆箱を取り出し、適当なシャーペンと消しゴムを取り出すと、解き始めた。

「…君はクソです」

「どうだった?」

 3時間後、俺は5教科全ての過去問をやり終え、薫科哉が丸付けを始めていた…のだが。

「まぁ…数学だけですし??他に4教科もあるので??」

「まあまあ、数学と国語だけですから?」

「後の2教科ありますし?」

「…」

「…………やはり君はクソです。僕が何の為に過去問を解かせたのか…全くもって意味が無いじゃないですか!!!!!」

薫科哉はそう叫んで、センターテーブルを拳で叩いた。そう、台パンである。

「まぁ…簡単だったしね」

「それでも全部100点とか信じられません!!!というか、信じたくない!!!!!!」

薫科哉はそう言って頭を抱えた。

「この全くもって勉強してなさそうで俳優業しか出来なさそうなこの脳筋がこんなことありえません…何か裏が…!!」

「試験監督は薫科哉だけどね」

「うるさい!!!」

俺はそう言われて口を閉じた。

「…君、授業中どんなこと考えているんです」

「えー?空が青いなぁ…とか」

「はっ倒しますよ。真面目に答えてください!!」

薫科哉は俺の肩を持って体を前後に動かした。

「えー?へー、そうなんだぁー…的な?」

「よくわかりました。君は才能の巣窟であることが。さっさと儺高行ってください」

儺高校…?

「どこそこ」

「知らないんですか???日本で一番偏差値の高い高校です。男子校ですよ。キャーキャー言われる回数は多少は少なくなると思いますよ」

「よし、そこに一緒に行こ」

「何故僕が巻き込まれるんです」

「だってほら…彼氏だから」

「はっ倒しますよ」

薫科哉は目を大きく開いてドン引きしていた。流石に酷い。

「…まぁ、あと偏差値を3あげるだけなので行こうと思えば行けますけど?」

「偏差値?」

「嘘でしょう?」

薫科哉がさらにドン引いた声色を出した。…何せ前世は受験、というものがなかった…否、正確に言えば学力の、であるが。

「…はぁ…超簡単に言うと、自分がどのような位置にいるかがわかるものです。例えば、偏差値が50であれば受験者の丁度真ん中、60であれば割と良い、みたいな感じです」

「偏差値100とか無いの?」

「偏差値80とかはありますけど、あってそれくらいです」

「何か面倒臭そうだな…」

色々と。

「まぁ、そんなこと考えるのは中2の後半とかで良いと思いますけどね。今は定期テストのことだけを考えておけばどうにかなるでしょう」

「そういうものなのね」

 時刻は午後5時半。

「お邪魔しました」

「いえいえいえいえー!!!楽しめたなら何よりよー!!」

薫科哉のお母さんは超ご機嫌に、口角を限界まで上げて笑っている。

「はぁ…母上五月蝿いですよ。送りますよ、演陵君」

「いやいや、良いよ」

「外少し暗いですし」

「いや、女の子じゃあるまいし」

俺がそう言うと薫科哉は俺の耳元に顔を近づけた。

「普段恋人とか散々言ってるくせに…?女の子でしょ、演陵君は」

「は」

薫科哉はそう低い声で囁くと顔を離し、妖艶に笑った。

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