第13話 恋人生活(偽)開始
「ごめん、冬那。明日から暫く一緒に学校行けないや」
「何で??友達いないんだけど?」
「いや…仕事でさ」
「なるほど。んじゃあ良いよ」
第一関門クリア。つかここが一番難しいところである。恐らく、というか絶対に、恋人生活(偽)のことを言うと相手が誰なのかを聞かれ、重大な審査にかけられるであろう。
「なぁ、薫科哉?」
少し屈んで上目遣いになる。
「なんです?」
「これから毎回学校一緒に登校しよ」
「嫌です」
即答された。
「恋人でしょ?」
「恋人(偽)でしょ」
「お願い!」
「……はぁ、わかりましたよ」
薫科哉が渋々承諾した。「またこれで僕への嫉妬の目線が…」とかなんとか死んだ目をしながら呟いているがそんなことは気にしない。
第二関門クリアだ。
そして第三関門は「周りにバレないこと」だ。あのあとすぐ、たった一つの約束として「周りにバレないこと」というのを薫科哉に言われた。なのでそれは守らないといけないのである。
そうして俺と薫科哉の恋人生活(偽)が開始された。
恋人生活(偽)1日目
今日は撮影が無かったので薫科哉と一緒に帰った。俺はブルーライトカットの眼鏡と白の帽子を被り、取り敢えずのデートスポットとしてゲームセンター、そう、ゲーセンへ行くことにした。薫科哉から意義を唱えられたがそんなものは気にせず行った。
初めてであった俺は操作の仕方が全くもって分からず、何も得ることは出来なかったが薫科哉は慣れているらしく、12個も取っていた。そしてその12個の内の一番大きかったウサギのぬいぐるみをくれた。受け取って抱いた時の薫科哉の台詞はこうである。「ハッ、滑稽ですね」。キュンとした俺の心を返して欲しいものだ。しかしこれも恋人同士がやることなのである、と考えれば(こんなことするのか知らないが)悪くはないであろう。
「はぁ…取り敢えず使える物としては上出来だな」
飛逹は薫科哉からもらった大きなウサギ、大体高さが飛逹の脚の長さくらいあるぬいぐるみを抱えながらそう言った。
「んぁー…」
飛逹はぬいぐるみに顔を埋めた。
「……恋人………ね」
私は前世を含めても、一度も恋人、何なら恋をしたことがない。自分が周りとは違うかもしれない、と思った時は前世の六歳の時である。
周りの皆は艶聞、そう、恋バナが流行りであった。例えば、近所のアーサー、という男の子がカッコいいとか、友達のお姉ちゃん、ルビーがかわいいだとか、結婚したいだとかである。そしてその輪に入っていた私は毎回こう聞かれるのである。「ねぇ、何かないの?」と。そして私はこう返すのだ。「えぇー?なんもなーい」と。そしてこう返ってくる。「なんだぁー、つまんなーいの!」と。そしてその返答が返ってくるたびに私はこう思った。「自分はつまらない人間なのか」と。
前世の私は「もしかして人生二周目なんじゃね?」と思うほどに達観しており、自分のことまでも第三者、まるで天から見ているかのようにどことなく、自分のこの体、肉体が本体ではないような気がしていたのだ。だからであろう、よく、自分が怪我していても気が付かずに、母に見つかりこっぴどく叱られていた。母に叱られた時にやっと、「ああ、自分は怪我をしていたのか」と気づくのである。そして「ごめんなさい」と謝るのだ。その方が怒られないからである。怒られたら謝る、そちらの方が面倒でない。それが頭、いや、体に染み付いていたのである。
「今世も一生独身だな…」
独身でない自信など無い。というか、本気でその人間を愛せるのか不安である。もし愛せていてもその「愛」が「同情」「親近感」などの違うものであると知った時の絶望感を想像するだけで吐き気がする。そう考えると独身である方が私の身には合っているのであろう。
「…寝よ」
少し暗い気持ちになれば睡眠を取るのが一番である。
そうして俺は眠りについた。
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