第10話 共に
「別に…なんとも思われてないんじゃないかな…割と普通だったよ」
「はぁ…結局はませてるからなんでしょうけど」
「はは…」
「だから僕から提案が」
「だから俺からお願いが」
同時に口を開いた。
「「あ」」
「君からどうぞ」
「…えーっと、一緒に行動してくれないかなぁ…と。ペア活動とかの時にさ…」
「えぇ、もちろん。僕もそれを言おうとしてました。君は厄介な奴に絡まれなくてハッピー、僕はペア活動の時にペアを探さなくてよくてハッピーですから」
薫科哉くんが手を差し出した。
「交渉成立ということで、如何ですか」
「もちろん」
俺は手を絡めた。
あれから2ヶ月。俺の中学校生活は思いの外順調に進んでいた。
「それでね、昨日友達がー」
「うん」
…いろんな人に絡まれるのは健在であるが。これでもマシになった方である。最初の方は学校のいたるところから人が集まって教室の廊下がパンクしていた。そのせいで俺は一時期別の教室で授業を受けなければならなかった。因みにその時は、我儘を聞いてもらい、薫科哉も道連れにした。案外楽しかったものだ。ほぼ個別指導だし。しかしそれでも生徒は止まらず、最終的にそ他学年のフロアに行ってはいけない、などのルールが俺が卒業まで制定されてしまった。特に、これに関しては俺に興味のない方々に多大なる迷惑をかけてしまっていると思う。
「飛逹君、次は音楽で移動教室です。早くしてください」
「あ、そだ、ごめん!!みんな」
「うーうん、そうだ、一緒に行っちゃダメ?」
「うーん…」
「飛逹、行きますよ」
薫科哉はそう言って俺を無理矢理立たせ、教室から引っ張りだした。
「ありがとー、助かったぁ…」
「別に。あれ以上待つのも厄介だったので」
「あはは、ごめーん」
あれから薫科哉はこんな感じで、引っ張り出してくれている。女の子のお話は、少し、ちょびっと長いので助かるばかりだ。
「そういえば、きちんと振り返りシート書きました?」
「あは、バッチリ」
俺は薫科哉に、字が枠外まではみ出した振り返りシートを見せた。
「っち、やってなければ差がつくチャンスだと思ったのに」
「ざぁんねん、というか今言わなければ俺が仮にやってなかったら気づかないのに。そういうとこ優しいよね」
「うるさい。そんなんだからめんどくさい女に引っ付かれるんですよ。最近は僕がニュースを見るためだけにテレビを付けても君が出てくるようになりましたし」
「あは、なんでだろうねー」
そう、俺は色々な種類のテレビ番組に出演することが多くなった。それはニュースも然りで、俺が国際情勢などで的を射たことを言うため中々に評判が良いらしい。そういう面では、アイツが役に立ったようで少し悔しい。
「そういうところが気に入られてるんじゃないですか」
「え、どういうところ!?」
「さぁ?ご自身で考えてみては?ご自慢の頭で」
「一緒くらいの人が何言ってるんだか?みんなに殺されるよ」
「少なくとも貴方よりかは安心してます」
そんな会話をしながら俺たちは音楽室へ向かった。
「恋愛ドラマ?」
「ん、そう」
昼食の時間、俺たちは一緒に秘密基地(人通りがほぼ無いだけのところ)で一緒にお弁当を食べていた。
「そろそろ中学生だしやってみないかー、ってさ」
「出たことなかったんですね」
「あるっちゃあるけど主人公の幼少時代だったから」
「なるほど?」
「出た方が良いと思う?」
「知りませんよそんなの」
「まぁ出るんだけど」
「刺しますよ」
薫科哉が眉を顰めた。
「…はぁ…それで、そんなクソしょうもないことのためだけに、会話に出したんですか」
「いやいや違うよー、流石にしょうもないことは言わないよー」
「さっきのは一体なんだったんですかねぇ?」
薫科哉が更に眉を顰めた。
「いやぁね?俺、恋愛した事無いなーって」
「は?」
「うん?」
「その人たらしが恋愛未経験だと?」
「人たらし?」
俺がそう言うと薫科哉は額に手を当てた。
「あー、なるほど、なるほどー。よし、やめましょう、出るの。」
「え、無理」
「あ?」
薫科哉が目を細めてこちらを睨んできた。
「だってOKしちゃったもん」
「マジで本気で刺しますよ????」
「いやぁ、めっちゃ頼んできたからさ?断れなくて」
「はぁ………もう恋愛を経験するか演技で乗り切るか、どちらかを選んだら良いんじゃないんですか?」
「うーん…うーん…よし!演技で乗り切ろう!」
「結局変わってないじゃないですか…」
「よし、ってことで元カノか元カレの話、聞かせテェェッ」
薫科哉が俺が言い終わる前に頭を思いっきり叩いてきた。
「いったぁぁぁあ!?何すんの!?」
「お前のその頭は飾り物なんですか??僕に彼女????彼氏????いたと思ってるんですか?煽ってるんですか??つかそもそもまだ中1ですけど??」
「ご、ごめん…」
俺はどうやら地雷を踏んでしまったらしい。
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