第9話 はじめての同等

「で、何で俺たちは手を繋いでるの?」

「…何となく?」

「なるほど」

「それで納得するんですね」

「何となく?」

「なるほど」

 そう会話しながら集団に近づいていく。

「見えました?」

「……同じクラスだ」

「先程の女の子はどうなんです?」

薫科哉くんが俺の方をじっと見つめた。

「…その反応は違うクラスだったんですね」

「やっばー…」

「執着されるようなことをしたのが悪いんです」

「そんなことしてねぇよ…」

「したからあんなメンヘラ女が誕生しているんでしょう」

「中々毒舌だな」

敬語の癖に。

「えぇ、その方が舐められませんからね」

「そ」

すると突然、集団から何かが突進してきたのが見えた。

「やば、薫科哉くん、こっち来て!!」

「ちょ、ちょっと!?」

俺は薫科哉くんの腕を引っ張り、走り始めた。

「何故僕まで巻き込まれているんです!?」

「何となく!」

「そうですか!!ぶっ潰しますよ!」

「こえーよ!!」

俺は後ろの気配が無くなったのを感じ、スピードを緩めた。

「はぁ…君、体力あるんですか?」

「それなりに」

「はぁ…初日からこんなに走りたくないんですけど。僕が間違ってました。あなたの声を掛けたのが悪かった」

「俺は一緒に逃げられてよかったけどな」

「あなたは、でしょう」

薫科哉は思いっきり溜息を吐いた。

「それで、ここからどうするんです」

「教室まで全力ダッシュ」

「同じくです。保健室は入られたら一発KOですもんね」

良い子は廊下を走らないよう、注意しようね、と。

「あった、1年1組だ!」

勢いよく扉を開け、閉める。すると黒板に大きく席が書かれていた。

「あ、隣の席」

「最悪です」

「なんで俺最初から嫌われてるの」

「心の中で考えてください。…それにしても皆さん遅いですね」

「そりゃそうだよ。普通、みんな誰と同じクラスになったか見てかなり駄弁るでしょ」

「それもそうですね……あーーーー…疲れた…」

薫科哉くんが椅子から滑り落ちかけた。

「体力無いね」

「ちょっと黙っといてもらって良いですか、イラつくので」

「えぇー?薫科哉くんと隣の席で俺は嬉しいけど」

「…あなた、そういうのはやめておいた方が身の為ですよ。勘違いする輩が現れます」

「何で?」

「…この短時間であなたの像が見えましたよ…」

「そりゃ奇遇だね」

「というか、話が微妙にズレてるんですけど」

目を覆い隠すほど長い前髪で、黒髪、メガネ、いや、サングラスを掛けていて歪み具合的にかなり目は悪い方。正確的に恐らく一人っ子。体力はあまり無い、ということは運動神経は恐らく悪め。つまりインドア派で目が悪いと言うことはテレビやゲーム、勉強をよくやっている可能性が高い。けれど俺を知ってる様子は無かったからテレビは除外。背は165センチ周辺。手は少し大きめ。足のサイズは26センチ周辺。性格は大人しめだがかなりの毒舌。かなりプライドが高いタイプか。

「そうですか。同等なんですね。認めたくありませんが」

「同等、って?何を根拠に?」

「何となく、ですよ」

薫科哉が少し、口角を上げた。それとほぼ同時に、他の生徒たちが入ってきた。

「え!?ちょっと待ってー!???」

そして、よくライブなどでよく聞く甲高い叫び声が聞こえた。

「ちょっと待って、もしかしてなんですけど、演陵 飛逹さん???」

「あ、よく気づいたね。演陵 飛逹だよ」

「え、嘘、あの、ファンで!!握手してもらえたりとか…!!!」

「もちろん」

俺はその子の手を包み込んだ。

「これからも応援よろしくね」

「ふぁ、ふぁ、ふぁい!!!!」

「ふふ」

そう俺が微笑んだ途端、その子が顔を真っ赤にして後ろに倒れた。急いで俺は立ってその子を支える。

「同姓同名じゃなかった…」

その子はそう言って記憶を失った。

「はぁ…初日から事件を起こすとは…やってくれたね」

 保健室の先生、多摩上 叶子が足を組んで頭を抱えた。

「すみません…」

俺は頭を下げた。

「これからは何かしらの対応を取らないとね」

「本当にご迷惑をお掛けして…」

俺は再び頭を下げた。

「一応、我々教師もさまざまな対応を実施していこうと思ってる。他の学校のこういうケースを持った人にも聞いてね」

「はい…」

「まぁ、君も無闇矢鱈にスキンシップを取らないようにね」

「すみません、手を取りました」

「君は馬鹿なのか…君が超有名人であることを自覚してくれ」

多摩上先生が溜息を吐いた。

「すみません…隣の席の子が僕を知らなかったもので…」

「その子は超イレギュラーだ。その子を基準にしてはいけないよ」

「わかりました…」

「じゃあ宜しい、出ていって良いよ」

「失礼しました」

俺は保健室を出た。そして教室に向かおうとすると近くの柱に薫科哉くんがもたれ掛かっていた。

「あなた、有名人だったんですね。失礼しました」

「いやいやいやいや、気にしないで良いよ、なんなら気にしないでほしいといいますか」

「ではそうします。先程の謝罪は取り消しで」

「本当に変わってるよね」

「あなたにそう言われたら終わりです。…これから、どうするんですか」

「え?」

「…学校に居づらいのでは。小学校ではどうしたんです」

俺はそう聞かれて目を閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る