9年目の挫折

第8話 中学校

「飛逹くーん!!!!」

「走んな冬那!!」

 そのまま冬那は俺にタックルをかました。

「ったく…女子にやったらダメだぞ?」

「飛逹くんにしかやらないよ?」

「ならいいけど…」

「さ、行こ!!」

 今日は俺たちの入学式だ。

「はぁ…緊張してきたぁ…!」

「これで緊張したらどうすんだよ。ステージに立つ時はもっと緊張するぞ」

「それはそうだけど…」

「そもそも、たかが中学校のクラス分けだ。オーディションの合否の分かれよりはどう考えてもマシだ」

「さっきから例えが大きすぎだよ!」

「真っ当なことだろ」

 まぁ、俺も冬那とはまた別の意味で緊張しているのだが。冬那は割と心配していないが、とうとう、冬那がオーディションを受けれる年になったのだ。

 毎年7月に開催されるオーディション。そこでは、毎年5万人以上の中から1人だけが選ばれ、日本一の音楽プロダクション、「ベスト・ミュージックエンタテインメント」に所属し、8月に開催される世界中からやってきたミュージシャンによる音楽祭へ、無条件で参加できる。

 だからこそ、日本中のミュージシャンになりたい人達はそれを受け、日本一になりたいのである。そして、その唯一の募集条件の年齢制限をクリアすることができたのだ。つまり、冬那が日本一になるための挑戦が始まる、ということだ。

 本当はこれよりも前にデビューする方法は幾つもあった。他の事務所がやっているオーディションでも良かったのだ。まぁ、これも全て冬那の意思であった。

「おーい、目が死んでるよー…」

「あぁ、ごめん。考え事してた」

「あぁ…飛逹君と同じクラスじゃなかったらもう私の中学校生活終わりだぁ…」

「何でだよ。冬那俺と結構話せてるじゃん」

「飛逹君は別なの!例外なんだからね!?飛逹君以外の人となんか緊張せずに話せたことなんて無いんだから」

「マジで言ってる?」

「マジ」

重症だな、という呟きは発すると殴られそうだったので伏せておいた。

 クラス発表5分前。にはもう冬那は緊張で失神しかけていた。

「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。飛逹君と一緒じゃなかったら私の人生終わり。飛逹君賢いから絶対に同じ高校に行けないし大学も違うだろうから私の人生終わり。同じクラス同じクラス同じクラス同じクラス。あぁやばいどうしよう、分かれたらどうしよう。死ぬ?やっぱ死ぬ?無理無理無理無理無理無理無理無理、私コミュ障なのに友達なんて作れるわけないし。飛逹君はもう今日中には人気者になってるんだろうなぁ、あぁーー!もう情けなくて死んじゃいそう」

…大丈夫かこれ。今の冬那の姿は誰がどう見てもメンヘラである。

「落ち着け、冬那」

「無理無理無理無理無理無理無理!」

まずい、さらに悪化してしまった。そして勢いよく俺の腕を冬那が掴んだ。

「もうやだ。もうだめ。こうなったら物理的に私が飛逹君のこと捕まえて離せなくしてやる」

「それは困る…」

流石に日常生活に支障をきたすだろ…。

「あ、待って、先生出てきた」

冬那を見るために下を向いていたため、気づかなかったが、確かに先生が出てきて、壁に何やら貼りつけた。そしてその瞬間、みんながそれに向かって走り出した。

「っておい、冬那!?」

いつもは大人しい(俺以外に対して)冬那が一直線に駆け抜けて、俺は見失ってしまった。

「はぁ…」

「…君、追いかけなくて良いんですか?」

「えー…っと」

「あぁ、失礼。僕は一年の里築 薫科哉です」

「演陵 飛逹です」

「飛逹君…ですか。それで、あの女の子は宜しいんですか?」

「?」

「はは、意外と薄情なんですね」

「酷いなぁ…」

中々言ってくれる。…少しだけアイツに似てるな…。

「良ければ一緒にクラス分け、見に行きませんか?」

薫科哉くんが俺に手を差し出した。

「もちろん?」

俺はその手を取った。

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