第21話 旧校舎での密談
「松雪さん、松雪さーん」
(どこかで私の名前が呼ばれている……)
「松雪さん!」
「んぅ、っはっ、お、おはようございます烏丸くん」
「おはよう、松雪さん。久しぶりだねぇ」
まだぼうっとする頭を抱えながら起き上がると、そこには烏丸がいた。いつものようにニカッと笑っていて、その笑顔をみると自分の体力がチャージされたとさえ思えた。
「ええ。でもどこで誰が見ているかわからない。早くどこかへ行ったほうが……」
「うんそうだね。じゃあ旧校舎に行こうか。あそこなら誰も来ないよ? なんせ鍵がかかっているからね」
「いや、私じゃなくて貴方だけのことよ」
「松雪さん。俺ね、手紙だけじゃ納得できてないんだ。だからちゃん松雪さんの声で、言葉で、今の君の気持ちを知りたいんだ」
「……わかったわ。でもそこにいくまでに見つかっちゃうわ」
「そこは任せて! 今は人払いの妖術をかけているからね。ここには俺たち以外誰もいないよ。他にも姿を隠す妖術、短期間だけど記憶を曖昧にする妖術、それにカラスを操る妖術。今使えるのはこのくらいかな。他にも妖術は使えるから大丈夫。安心して。君が行きたいのなら俺は連れて行けるよ」
「私が行きたいのなら……」
「そう。選択権は君にあるんだ」
「あなたは、そう言ってくれるのね。じゃあいくわ。監視されるのが、少し、しんどくて」
「そういうことならお任せあれ! まずはこの術をかけたら周りの人から見えなくなる術!」
薄い膜のようなキラキラした何かが体にまとわりつき、腕やら脚やら制服やらに吸収された。
「これがかかっている間は君のことは誰も見つけられない」
「烏丸くんも?」
「いいや、手を繋いでいればわかるよ。はい」
良子は迷った。もしバレたら義実家から盛大な説教を喰らうだろう。実家にバレたのなら、あの薄暗くて家の奥の方にある防音性の高い部屋で何発も殴られるに違いない。
それは怖くて、辛くて、もう逃げ出したくて、でもどうしようもできない。なぜ私なのかと泣き叫びたくなる。どうしようもないから普段押し殺している本音を本人に向かって叫んでやりたくなる。
「そうだったね。じゃあ俺について来て」
「あ、あの。手」
良子はおずおずと烏丸の方に向かって手を伸ばした。
烏丸は目を輝かせてその手を壊してしまわないようにそっと握った。
その後自分にも術をかけたら周りの人から見えなくなる術をかけたら、もう二人を邪魔する奴らからは見えない。きっと誰も気が付かないだろう。
内心本当に見えてないのかちょっぴり不安になりながらも旧校舎までたどり着くことができた。
旧校舎はもう何年も使われていない。埃とカビの匂いが入り口に近づいただけなのにむわっと香ってくる。
「鍵は持ってらっしゃるの?」
「こんなものは力づくで,と」
烏丸が南京錠を両手で持ち、少し力を加えるとバキンと音がして役目を終えた。
「これで入れるよ。さあ行こう」
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