10月ー神無月ー

第20話 新校舎屋上の立ち入り禁止

 通学路の街路樹も色を変え始め、いよいよ秋が近づいてくる。季節の変化を楽しむ気持ちも勿論あるが、どうしても朝と帰宅後に落ち葉の掃除が追加されるとなると憎らしくもなる。


「朝のホームルームを始めるぞ〜起立、礼、着席〜」


 まだ眠そうな担任があくびを堪えながら、いや、途中でから堪えられていない場面もいくつかあったが今日の諸注意事項を読み上げていく。


「最後に一つ。これは命に関わるからちゃんと聞いとけよー。新校舎屋上の周りを囲むフェンスが壊れていてな、しばらく屋上への立ち入りは禁止になった。鍵が壊れていて明日届くから今日1日は入れないようにテープを貼っているがお前ら脅しじゃないから絶対に近づくなよ!」


 これだけは本当に重要なお知らせであるようで、いつもより幾分か真面目に言い聞かせているように聞こえた。


 ホームルームはいつもより少し早く終わったから時間がある。お手洗いを済ませておこうと良子は自分の席から立ち上がった。瞬間クラスの雰囲気がピリッとした。


 それを気づかなかったふりをしてお手洗いへと向かうが、後ろから二人、確実に良子の後についてきている生徒がいる。きっと親から言いつけられた監視だろう。


 どこへいくにも監視され、話したい人とも話せず、婚約者にも気を使い、義実家では理不尽な扱いをされる。


 正直疲れたのだ。それに全てがどうでも良くなり始めている。


 もし良子が両親仲の良く、子供を気遣うような、良子からすれば夢のような家庭に生まれていたのなら、きっと両親は話を聞いてくれて、甘いものを食べて、今日はゆっくり寝なさいと甘やかしてくれるのだろう。


 現実は天と地ほど差があるという言葉の地の方であった。「あまったれるな、そんな暇があるのならば家のことをしなさい。大体お前は……」と良子の非をほじくり出して誇大して家のために、会社のために駒として扱われるのだろう。


 お手洗いを終え教室に戻ると、1時間目の授業の鐘がなった。授業の科目は国語である。


 良子は教科書とノートを用意して、筆箱を開けシャープペンシルを出した。授業が始まった。しかしノートを取るどころか教科書を開くことすら煩わしく感じた。もうどうでもいい。そう思った。


「先生、体調が悪いので保健室に行ってきます」


「はい、分かりました。付き添いはいる?」


「いりません。大丈夫です」


「でも何かあったら危ないからな、中山、ついていってやりなさい」


「了解です。松雪さん、いこうか」


 監視の目がつくことは予想していたがまさかこんなに堂々とつけてこられるとは思わなかった。これでは授業をサボることができない。


 しょうがないから大人しく保健室に行き、頭痛がすると言ってベットのある一角を借りることができた。


 上履きを脱いでベットに横たわり寝ようとする。するとほんの10秒程度で意識が朦朧としてきた。


(ああ、そういえば昨日は掃除をさせられてまともに寝ていなかったな)


 遠くから体育を行なっている声が聞こえてくる。音楽室ではリコーダーの練習をしているのだろうか不揃いな音が壁と床越しに聞こえてくる。


(あ、ねむ)


 人がたくさんいるところ特有の雰囲気に包まれながら朦朧としてきた意識が溶けていくように眠りに落ちた。

 


 

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